公正取引委員会の審査官と出向検察官は「正しく」描かれているか
2022年07月17日
フジテレビのドラマ「競争の番人」(坂口健太郎、杏、小池栄子ら出演)の放映が、7月11日月曜日午後9時に開始された。2回目は7月18日(月曜日)午後9時から放映される。
「競争の番人」とは、カルテル・談合等を取り締まる独占禁止法の専門機関の公正取引委員会(以下、「公取委」)のことだ。これまで、その組織の実態や、具体的にどのような活動を行っているのかは一般人には殆ど知られておらず、ドラマで取り上げられるのは、おそらく初めてのことだ。
原作の同名小説の著者の新川帆立氏は、弁護士でもあり、『元彼の遺言状』という推理小説で、2020年10月に『このミステリーがすごい!』大賞を獲得した「推理作家」だ。同名のドラマが、2022年4月から、フジテレビの、いわゆる「月9」、月曜日午後9時からのゴールデンタイムに放映され、その放映中の5月9日に、原作の小説「競争の番人」が発売されたもので、その経過からも、小説自体が、ドラマ化を意識して書かれたものであることは、間違いなさそうだ。
小説の一つのジャンルとして、「社会派推理小説」があり、「社会性のある問題を扱い、リアリティーを重視する作品」とされる。その中には、実在する官公庁等の組織を描くものもあり、映画、ドラマで映像化される場合もある。小説が広く読まれ、さらに映像で多くの人が視聴するということになると、実在する組織についての世の中のイメージや理解に影響する。
そういう「社会派小説」が映像化される場合も、エンターテインメント性を高めるためにリアリティーがある程度犠牲になる場合もある。かつて大人気ドラマとなった「半沢直樹」なども、かなりエンターテインメント性が重視された例であり、メガバンクの内情に詳しい人間からは、リアリティー的には違和感があったようだ。
そういう意味では、「社会派」と言われるジャンルでは、一般的にリアリティーは重視されるが、そのレベルは、原作小説>ドラマ、映画になるというのが一般的だろう。
この小説では、殺人事件のストーリーを考える際も、過去に自分自身が所属していた検察の組織のリアリティーには徹底してこだわった。ドラマの脚本の監修も行い、原作にないストーリーは、事細かくリアリティーをチェックした。最終的には検察を描くドラマとしてリアリティーに問題のないものに仕上がった。
同様に検察を舞台とする推理小説に、雫井脩介氏の『検察側の罪人』(2013年)があり、後に映画化され(2018年)、話題作となった。その小説の執筆段階で、雫井氏から私に、検察内部のことについて取材があり、ディテールにわたって答えた。原作も映画も検察に関してかなりリアリティーのあるものになった。
そういう観点で、一応、「社会派推理作家」として大賞まで受賞した新川氏の小説を原作として、公取委を舞台とする初のドラマが映像化されるというのであるから、注目が集まるのも当然だった。
私も、検事時代の1990年から93年まで、公取委事務局(現在の事務総局)に出向し、その後も、独禁法を専門分野としてきただけに、公取委を描くドラマのことを知り、早速、原作の小説「競争の番人」を読んでみた。
ところが、驚いたことに、小説「競争の番人」は、実際の公取委の審査の実態とは凡そかけ離れたもので、リアリティーという面では、なんとも言いようのないものだった。ストーリーの中に「殺人(未遂)事件」が出てくるが、その事件の犯罪捜査と公取委の行政調査が関係すると、行政調査権限の行使と違法な人権侵害との間に微妙な問題を生じさせる。その点に関連して、私自身かつてその立場にあった「公取委出向検察官」について記述も、間違いだらけで、仮にこの小説通りの事実があったとすれば「違法調査」になってしまう。
このような小説を原作とするドラマはいったいどういうことになるのだろうかと思い初回ドラマの放映当日、ネット上で、【「競争の番人」原作小説、ここが間違ってる!】と題して原作の問題点を指摘した。
ところが、7月11日、初回の延長で90分となったドラマ「競争の番人」を見てみると、
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