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沖縄の現代美術作家たちはアメリカと基地を見つめ続ける

復帰後世代4人のグループ展「PARADISE OKINAWA」

菊地史彦 ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師

「復帰」後の作家たち

 沖縄の現代美術作家がグループ展「PARADISE OKINAWA」(~8月6日[土])をやっているというので、東京・南麻布のMISA SHIN GALLERYへ出かけた。

 出展しているのは、照屋勇賢、石垣克子、伊波リンダ、上原沙也加の4人。1967年生まれの石垣から1993年生まれの上原まで、復帰後50年の年に各世代の作品が同じ空間で体験できるのは面白い趣向だと思っていた。

 ギャラリーはこじんまりした空間だが、気持ちの良い配置で作品が展示されている。

「PARADISE OKINAWA」展開催中のMISA SHIN GALLERY「PARADISE OKINAWA」展開催中のMISA SHIN GALLERY=MISA SHIN GALLERY提供

 ここを運営している辛美沙さんとは、15年ぶりに沖縄で会った。5年前に移住したというがちっとも知らなかった。1泊目のホテルで、短い旅の計画を考えていたときに、Messengerに連絡が入った。

 沖縄というのは、不思議な具合に人がつながるところで、辛さんは、ちょうど同じ時期に那覇にいた翻訳者の木下哲夫さんとも浅からぬ縁があった。木下さんの友人で建築家の銘苅靖さんにも合流してもらって4人で食事をした。この展覧会のことは、その場で聞いた。

4人のテーマ、4つのスタイル

 4人のアーティストの作品について私見を交えてご紹介したい。

 照屋勇賢氏は、多摩美大卒業後、ニューヨークでも学び、現在はベルリンを拠点に活動している。今年は、復帰50年特別記念展として、「CHORUS/コーラス 歴史と自然と私達」(那覇文化芸術劇場なはーと)で新作を発表している。米軍基地を連想させるフェンスを風船で宙に浮かせたり、木製パレット(荷台)を重ねて都市の真っ只中に御嶽(うたき、沖縄で祭祀などを行う聖なる場所)を出現させたりなど、沖縄のさまざまな「今」に向き合う作家である。

照屋勇賢 TERUYA Yuken Untitled 2018 Watercolor on crumpled paper and cut-out 34.5×25cm照屋勇賢 TERUYA Yuken Untitled 2018 Watercolor on crumpled paper and cut-out 34.5×25cm=MISA SHIN GALLERY提供
 今回出品されているのは、沖縄の自然を異なる手法で表現した照屋流「青の世界」だ。印象的だったのは、捻(よ)じった紙を貼り込んで着色した波のようにも魚群のようにも見える作品。左上方の黄色いラインは、辺野古新基地の建設地に張られた立ち入り禁止のロープと聞いた。海底(うなぞこ)から押し上げる潮は、何かに憤っているようにも見える。

照屋勇賢 TERUYA Yuken Untitled 2018 Watercolor on Paper 37×25cm照屋勇賢 TERUYA Yuken Untitled 2018 Watercolor on Paper 37×25cm=MISA SHIN GALLERY提供
 上空から見た礁湖(ラグーン、沖縄言葉ではイノー)のような不思議な作品もある。辛さんの解説によれば、照屋氏が住んでいたニューヨークのアパートで、ベランダに紙をこすりつけてわずかな凹凸を拾い、その上に着色したものらしい。寒空(?)のニューヨークに偶然出現した沖縄のラグーンからは、優しい寄せ波の音が聞こえてきそうだ。

 石垣克子氏は、沖縄県立芸大を卒業。今年は佐喜眞美術館(沖縄)でグループ展「『復帰』後 私たちの日常はどこに帰ったのか」(~9月11日)に参加している。

 彼女が描くのは、沖縄の街の風景。さりげない筆遣いの家々や樹木や青空は匿名の空間であるようで、そうではない。当たり前のように描き込まれた「基地」が、間違いなく特定の場所であることを刻印している。

 ただ興味深いのは、画家の眼差しが「反基地」の意図だけに留まっていないことだ。

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