権力ある者の不適切性を過小評価する「ゆるふわ権威主義」
2022年07月22日
安倍晋三元首相が銃殺される事件が日本中を震撼させました。遺族、身近な人々、熱狂的だった支持者等が悲しみに打ちひしがれているのは当然のことと思います。
ですが、日本に住む私たちが社会全体として最優先にやらなければならないことは、同じような事件を二度と起こさないようにすることでしょう。安倍氏の死をお涙頂戴的ナラティブに仕立て上げて消費したり、「自分が遺志を継ぐ!」という類の発言をする政治家に後継者の役割を期待するだけでは、再発を徹底的に防ぐことはできません。
そのためには、単に警備体制の改善だけではなく、凶行の背景には何があったのか、正確に分析しなければなりません。当然のことですが、それは決して「殺人の動機に正当性を与えよう」というものではなく、凶行につながりかねない蓋然性を見つけ出し、対策を打っていくことで、「社会の土壌を凶行が起きないものへと変えていこう」という意味です。
既に多々報じられているように、安倍氏を撃った山上徹也容疑者は、母親が宗教団体の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)へ献金を繰り返し、破産し、家庭が崩壊したため、家庭連合と関係が深いと感じた安倍元首相を狙った旨の供述をしているようです。
2022年7月12日に記者会見を開いた「全国霊感商法対策弁護士連絡会」によると、2021年までの約35年間で消費生活センターなどが受けた家庭連合関連の相談は3万4537件、被害額は約1237億円に上るそうです(朝日新聞、「旧統一教会に絡む被害相談、いまも 弁護士ら会見 元2世信者も同席」2022年7月12日)。
旧統一教会には勧誘などに関する違法判決も度々くだされていることから、カルト(反社会的行動を繰り返す宗教団体)だと断定しても差し支えないでしょう。私のまわりでも家庭連合をめぐってトラブルになっている知人がおり、非常に悪質な組織だと常々感じていました。山上容疑者の供述や周囲の証言についての報道から判断すれば、家庭連合に怨恨を抱くのも無理がないように思います。
問題は、山上容疑者が安倍氏にも怨恨の矛先を向けたことは、単なる逆恨み(筋違いなことを理由に人を恨むこと)に過ぎないか否かです。安倍氏の祖父・岸信介元首相は、統一教会の日本進出当初から関係が深かったとされ、“後継者”の福田赳夫大蔵大臣(のちの首相)が1974年5月7日に開催された統一教会の「希望の日」晩餐会において、文鮮明氏を褒めちぎっている映像がインターネット上で出回っています。
個別の現役政治家と家庭連合の癒着に関してここでは詳細に触れませんが、霊感商法対策弁護士連絡会、塚田穂高氏(研究者)、ジャーナリストの鈴木エイト氏、有田芳生前参議院議員等が明らかにしている通り、自民党を中心に、歴史的にも根深い癒着があったと言っていいのではないでしょうか。
山上容疑者は2021年9月にUPF(天宙平和連合/家庭連合の関連団体)のイベントに安倍氏が送ったビデオメッセージが犯行のきっかけと供述しており、安倍氏はUPFの活動や総裁の韓鶴子氏を賞賛するコメントを発していました。「(安倍氏は)現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人」とした山上容疑者の捉え方はあながち間違っていないように思います。
Twitterには、「山上容疑者は自分だったかもしれない……」「彼の気持ちが痛いほどわかる」という類の「宗教二世」のコメントがいくつもありました。このことからも、カルトの被害者やその二世が「関係が深い政治家に対して強い恨みの感情を持つ」ことには、一定の蓋然性が存在するのかもしれません。
以上のことを考慮すると、再発防止には以下のような対策を施すことが必要不可欠です。
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