メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

不平等な現実に抗う〈民主主義〉をめぐって

経済・政治・人間……命の軽重を認めないために

古川日出男 小説家

新型コロナが奪ったものは何か

 オリンピックの延期(ただし無期限延期ではなかった)がまさにそうなのだけれども、新型コロナウイルスが国内外で感染拡大し、これ以降、人類に突きつけられた問いは「予定を立ててよいのか?」だった。

 たとえば私たちは対面で他者に会うことが容易ではなくなった。誰かに会えない、というのは、「人と会う予定を立てられない」ということである。それからまた、映画館に行って映画を観ることが容易ではなくなった。これは「映画を観る予定が立てられない」ということである。外食も同様で、「外食する予定が立てられない」。卒業式も中止になり、入学式も催されず、「学校行事の予定(開催すること・参加すること)が立てられない」。それでも私たちは、どうにか予定を立てようとして、そのつど落胆した。

 落胆だけではなかった。絶望し、絶叫し、号泣した人たちもいる。たとえば身近な人が新型コロナウイルスに感染する。重症化し、最悪の場合は命を落とす。コロナの死者が世界最大であるアメリカ合衆国では、今年5月にその死者数は100万人を超えた。私はたまたまその時期にアメリカ国内にいたのだけれども、そんな私でも「100万人超がこの国から、予定外に消えた」という現実は、どうしても真に迫っては受けとめられなかった。桁数が大きすぎたのだ。

 いま私は予定外に消えたと書いた。つまり〈予定〉と記したのだけれども、読者のあなたは読んでいる間さほど違和感はおぼえなかったのではないかと思う。

 そのことを踏まえて、このパンデミックが人類にもたらしているのは、「人びとの予定を奪うことである」と私が言い換えたら、けれどもあなたは立ち止まるかもしれない。

 「現にこれほどの人命が奪われているのに、それを『予定を奪うこと』なとどいう軽いフレーズに換えるのか?」と。

 だが、私はそこで再度あなたに立ち止まってほしいのだ。

・・・ログインして読む
(残り:約4165文字/本文:約5571文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

古川日出男

古川日出男(ふるかわ・ひでお) 小説家

1966年生まれ。1998年、長篇小説『13』でデビュー。『アラビアの夜の種族』(2001年)で日本推理作家協会賞と日本SF大賞を受賞。『LOVE』(05年)で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』(15年)で野間文芸新人賞、読売文学賞。他に『サウンドトラック』(03年)、『ベルカ、吠えないのか?』(05年)、『聖家族』(08年)、『南無ロックンロール二十一部経』(13年)など。11年、東日本大震災と原発事故を踏まえた『馬たちよ、それでも光は無垢で』を発表、21年には被災地360キロを歩いたルポ『ゼロエフ』を刊行した。『平家物語』現代語全訳(16年)。「群像」で小説『の、すべて』連載中。「新潮」(2022年4月号)に戯曲『あたしのインサイドのすさまじき』を発表した。新刊『曼陀羅華X』(新潮社、3月15日刊行)。音楽、演劇など他分野とのコラボレーションも多い。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

古川日出男の記事

もっと見る