勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家
1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ジェンダーギャップ指数が「タリバン寄り」なのも頷ける
では、その「素地」や「理由」があったとして、それは何だったのでしょうか。まず、山上容疑者の幼い頃を知る近隣住民からは、「休日の日に父親が母親を怒鳴り散らす声が鳴り響くのが近所でも有名だった」という証言があります(スポニチアネックス「山上容疑者母 旧統一教会入信の真相 夫のDV、長男の大病苦に…「生家」取材で明らかに」2022年7月15日)。つまり、DV被害者だったのかもしれません。
また、彼女の父(山上容疑者の祖父)は建設会社を起業し、近隣住民からも「一家は優秀」と評判の家庭で育ったものの、妹(山上容疑者の叔母)は医師になる一方で、自分は父の会社に中途採用で入社した夫(のちに取締役)と結婚して主婦になったそうです。
優秀と言われながらも、女性差別が蔓延するこの日本社会で男性のようにキャリアでの自己実現はできず、主婦になって経済的な自立を失った。ところが、夫がDV男で、八方ふさがりになってしまったという女性の悲劇は、この家父長制社会において頻繁に起こっていることです。あくまで推察ですが、もしかすると山上容疑者の母もそのパターンだったのかもしれません。
このような境遇の女性が、家父長制を否定するフェミニズムに向かうのではなく、典型的な家父長制型の家族像を理想に掲げる宗教や、それに類似する活動(政治活動や社会活動等)に傾くというのは、決して珍しくありません。
実際、先の記事「カルトと政治家の癒着に「激甘」な人たちが増殖した背景にあるのは……』でも触れた私の知人にもその傾向がありました。
カルトと政治家の癒着に「激甘」な人たちが増殖した背景にあるのは……
そもそも、家庭連合に限らず、「保守的な」家族観を持った宗教やそれに類似する活動が、そのような境遇の女性をターゲットにするのは常套手段です。というのも、「あなたが理想の家庭を築けない(or築けなかった)のは、あなたに責任がある。あなたの努力や信仰(場合によっては献金等も)が足りないからだ」という強烈な「自己責任論」を彼女たちに刺しやすいからです。
本来の不幸の原因はDVやワンオペ育児を強要する夫、女性の経済的自立を阻む差別的な職場や文化、そしてそれらを放置する社会全体にあるにもかかわらず、男尊女卑の社会によって自己肯定感が削られた真面目な女性は、どうしても「自分に悪いところがあったのだろうか」と自分を責めてしまいがちです。彼らはそこに付け込むわけです。