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『クミコ コンサート2022』開催、クミコインタビュー(上)

皆、弱いよね、私とお客さまはそこを支え合っている

米満ゆうこ フリーライター


 今や伝説となった銀座のシャンソン喫茶「銀巴里」でデビューし、ジャック・ブレルの名曲『愛しかない時』に初めて日本語の歌詞をつけて歌ったクミコ。

 今年デビュー40周年を迎え、『銀巴里から40年… クミコ コンサート2022わが麗しき歌物語Vol.5 愛しかない時』と題したコンサートを開く。今回、その『愛しかない時』を新録音し、6月に配信、8月10日にはCDリリースが決定した。しかし、レコーディング目前にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、ウクライナを2度も訪問したことがある彼女は、歌えないと悩んだという。楽曲とどう向き合ったかをはじめ、ウクライナ訪問時の様子、井上芳雄との交流、コンサートへ向けてなどを語ってもらった。

シャンソンは時代とリンクしながら言いたいことを言う

クミコ=久保秀臣 撮影拡大クミコ=久保秀臣 撮影

――まず、『愛しかない時』の楽曲との出会いを教えてください。

 なんとなく聴いていた歌ではあったんです。当時、来日したポーランド出身のアンナ・プリュクナルさんという歌手のコンサートに行って、彼女が革ジャンでロックを歌うように、『愛しかない時』をフランス語で歌っていたんです。なんかよく分かんないけどすごいなと。これがシャンソンなんだと思ったんです。その当時、シャンソンは女優さんがドレスを着て優雅に歌っている感じで、それもいいんですけど、ロックのように時代とリンクしながら言いたいことを言うのはありなんだなと初めて知った。どちらかというと社会派シャンソンになりますが、自分の言葉で歌いたいなと思い、翻訳して歌詞にしました。

――銀巴里でデビューされましたが、銀巴里は当時、すごいところだったそうですね。

 シャンソンというジャンルは認知されていて、東京のあちこちに歌う場所はあったんです。その中に君臨しているのが銀巴里で、そこに出ることがシャンソンを歌っている人たちのステータスだった。美輪明宏さんや金子由香利さんも歌ってこられていてスターでした。その上、文化人をはじめ、学生やどんな人でも出入りできる自由な場所だったんです。料金も安くてコーヒーを飲むだけで一日中いられる。幅広い人にシャンソンを聴いてもらえる文化を作っていた場所でしたね。

クミコ=久保秀臣 撮影拡大クミコ=久保秀臣 撮影

――今はもうないですし、美輪さんのトークでしか聞いたことがありませんでした。クミコさんとシャンソンとの出会いは?

 私は越路吹雪さんが好きだったんですね。彼女の歌っていたのがシャンソンで、ドラマティックシャンソンと言われていたんです。歌詞も女の人の裏の感情や奥の深さなどが描かれていて、面白いなと。まさか自分がかかわるとは若いころは思っていませんでした。

ウクライナ侵攻は私にとって地続き

――40年振りに『愛しかない時』をレコーディングするとなったのですが、そこで、ロシアによるウクライナ侵攻が始まります。なかなか歌を歌う気持ちにはなれなかったそうですね。

 歌を歌うというより、『愛しかない時』を歌う意味がなくなったと思ったんです。あの歌は反戦歌ではないけれど、「愛があれば何とかなる」という内容ですよね? 色んな意味での戦いはありますが、愛を拠り所にして、皆生きていく。愛を武器にしようという世界共通の歌です。それがあんな形で破られる日が来るとは思わなかったんですよね。私は戦後世代の昭和29年生まれですけど、親の時代に戦争があって、自分の時代に身近に戦争が起こるなんて思ってもみなかったんですよね。

クミコ=久保秀臣 撮影拡大クミコ=久保秀臣 撮影

――戦争を経験していない世代はそう思う人がほとんどだと思います。

 2016年に行ったウクライナが、たまたま自分にとって身近になっていた。知り合いもいて、そのご家庭に行ってお茶を飲んだりして、色々と見ているんです。そのころからウクライナはロシアとの関係が悪くて、モスクワ経由では行けず、パリで乗り継ぎをしたんですが、何日も寝てない状況。現地に着いたら、ウクライナの旗は「青空と農作物の色ですよ」と、本当に誇らしげに人々が教えてくれて。そこで取れた穀物と野菜のスープを飲んだら、魔法のように元気になったんですよ。滋味豊かな農作物ができる文化なんだと。だからウクライナ侵攻は、自分のことのように悔しくて、悲しくて、私にとっては地続きになっている。『愛しかない時』を歌っている場合じゃないよ、こんな虚しいことを歌えないよと、ずっと悶々としていました。

◆公演情報◆
「銀巴里」から40 年…
クミココンサート 2022 わが麗しき歌物語 Vol.5 愛しかない時
大阪:2022年8月13日(土) 15:30 サンケイホール ブリーゼ
名古屋:2022年9月10日(土) 15:30 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
札幌:2022年10月2日(日) 15:00 道新ホール
東京:2022年12月4日(日) 15:00 EXシアター六本木
公式ホームページ
【リリース情報】
◆6月22日(水)先行配信リリース
「愛しかない時Quand on n a que I amour」
◆8月10日(水)CDシングルリリース
M1.愛しかない時 Quand on n a que I amour
M2.今日でお別れ(クミコ duet with 菅原洋一)
日本コロムビアクミコオフィシャルホームページ
〈クミコプロフィル〉
 1998年にシャンソンの老舗・銀座「銀巴里」のオーディションに合格し、プロとしての活動をスタートする。その後、シャンソンの枠にとどまらず、ジャンルを問わない唄い手として活動。2010年に『NHK紅白歌合戦』に初出場し、広島平和記念公園にある原爆の子の像・佐々木禎子の生涯を綴った歌「INORI 〜祈り〜」を歌唱する。2016年、ウクライナの首都キーウにある「国立チェルノブイリ博物館」で開催されたチェルノブイリ原発事故から30周年の式典に出席、松本隆作詞の平和を願うスペイン・カタルーニャ民謡「鳥の歌」や「INORI 〜祈り〜」を披露し、現地のウクライナの人々と交流を深めた。
公式twitter

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筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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