2022年07月27日
私は在日コリアン3世。日韓の断絶は自分自身の内面の断絶にもつながると言っても過言ではありません。私は音楽家。なので、音楽で日韓をつなぐことは、これまで当たり前のように行ってきたことで、一種のライフワークだったと言えるでしょう。しかし、周知の通り、日韓文化交流はコロナによって止まってしまいました。一度断たれた小さな交流がまた再開するのは思ったより大変そうです。
日韓両国での「隔離」が無くなった今、特別永住権者の私はビザ無しでとりあえず日韓を行ったり来たりできます。コロナ以前、日韓の間を互いにビザ無しで行ったり来たり旅行できていたことが、どれほど「平和」だったことかと思います。現時点では、日韓を旅行する際、ビザの取得に1カ月ほどかけて、ようやく行けるのですから、これは70年代(?)くらいに戻ってしまった感じですね。
「隔離が無くなった!」ということで、私は消えた約3年間を取り戻すべく、すぐさま日本での公演を企画しました。
久々の日本公演です。
8月4日、大阪・曽根崎新地のミスターケリーズ、6日、東京・六本木のキーストーンクラブ東京で、韓日クォーターのハクエイ・キム(ジャズピアニスト)と私の韓国伝統音楽との二人だけのライブを企画したのですが、3年前の制作状況(スタッフ、制作費等々)は消えてしまっていて、一から自分でやり始めなければならない感じ。「こんなことまでして、やる? やらない?」という葛藤が当然湧いてきて、その葛藤を払拭するのにまたエネルギーを使っていること自体がまた、ストレスで。
もう、何も考えず、とりあえず、一つ一つできることからこなしていくだけ。3年前のある程度出来上がっていた「システム」のありがたさが身に沁みています。
さて、日韓交流と言うと、じつはコロナ前も、戦後最悪の日韓関係と言われるなか、こういった文化行事が次々と中止になっていたのはご存知でしょうか。日本では、嫌韓。そして韓国では、日本不買運動。我々は政治に振り回され、それに追い打ちをかけるようにコロナで打撃を食らったわけです。
しかし、世界中をみてもこれだけ仲のいい隣国はなかなかないと思うのです。豊臣秀吉の文禄・慶長の役、そして1910年の日韓併合から本格的に始まる植民地支配、全て日本から仕掛けたものではありますが、数百年続く日韓の長い温和な歴史を見ると、仲が良い方だと言えます! 負の歴史より、朝鮮通信使など良いことに目を向けて日韓関係を考えるのも、今の時期かなり重要だと思っています。
実は先日も大阪のとある行事で、お能の大倉正之助(重要無形文化財総合指定保持者、能楽師、囃子方大倉流大鼓)さんと即興ライブをやってきました。
大倉正之助さんにはもう長い間、お世話になっていて、これまで演奏もたくさんしました。やはり、そのライブでも素敵な時間を過ごすことができました。音階もリズムも違う日本の伝統音楽と韓国の伝統音楽がこれだけ即興で合わせられるのは、不思議なことです。二人の長い付き合いということだけでは、こう上手くいきません。
日本と韓国の伝統音楽はリズムや音階が異なります。しかも、どちらも民俗音楽、伝統音楽ですので、民俗が違い、時代も違う。従って、演奏方法、音楽が流れて進んでいく方法も全然違います。どこからどこまでが、一小節なのか? リズムはどのように取るのか? 初めて聞くとたぶん皆さんも分からないでしょう。でも、大事なのは合わそうとする「思い」です。お互いの音に耳を向け、それと協調しようとすれば、その違いは、素晴らしい音と化します。
なんでもそうですね。
お互いの違いを認め、尊敬し合うと素晴らしい「調和」が生まれるのです。
久々に帰った日本の市民たちのコロナ対策の意識は、韓国とほぼ一緒でした。繁華街のお店の数店舗が閉まっていた状況も、残念ながら韓国と似ていました。久々に食べた日本食はおいしかった! そして久々の日本の方々の親切さがうれしかった! 日本の秩序と律義さ! ずっといたら、少し「遅っ」って思う時も出てくるのでしょうが、久しぶりの「日本」は心地よかったな。外国人目線になってました。
私は日本も韓国も大好きです。
コロナによって止まってしまった日韓文化交流を、国楽と西洋音楽のジャズを通じて再び活性化させようとします。ハクエイ・キムとミン・ヨンチ、私たちは2014年から積極的な公演活動を行ってきました。韓国固有の旋律とリズムをジャズと融合させた公演で、日韓交流にも貢献してきました。特に日本国内では、東京、大阪、福岡、北海道など20都市をツアー公演し、計3万人の観客を動員したことがあります。そのような私たちが2022年8月、東京と大阪で公演活動を再開しようとします。私たちの活動に多くの関心をお寄せください。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください