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渡辺祐真/スケザネ『物語のカギ』は、「いかに楽しく読むか」の参考書

新たな“書評家”によるリベラルアーツとしての物語論

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

 書評系YouTuberとして登場し、あれよあれよという間に文芸批評の表舞台に躍り出た書評家、「スケザネ」という通称をもつ渡辺祐真の初めての著書が出た。

 『物語のカギ』というタイトルだが、〈「読む」が10倍楽しくなる38のヒント〉という副題が付され、同じく数少ない若手書評家、三宅香帆の『女の子の謎を解く』と似たテイストを持った本造りで、国文系の老舗出版社である笠間書院としてはこのところニューウェーブともいえる若者向け「売れ線」企画の気概が随所に感じられる本だ。

渡辺祐真/スケザネ『物語のカギ──「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』(笠間書院)拡大渡辺祐真/スケザネ『物語のカギ──「読む」が10倍楽しくなる38のヒント』(笠間書院)
 この本を繙くにあたって、まずは序章の冒頭にさりげなく置かれた一文を引用してみる。

 〈本書では物語の楽しみ方について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。/基本的には「小説」などの文学を中心に扱いますが、「物語」としたのは、映画や漫画、アニメ、ゲームといった活字以外の作品も扱うためです。特にことわりがない限りは、「物語」=「ストーリーを持つ芸術」としてお読みください〉

 この一見平易な文章が、実は本書の性格を如実に示している。まず本書は物語を「楽しむ」ための本であって、その方法を「教える」のでも「明かす」のでもなく、「一緒に考える」本だということ。そして扱う作品は活字のみならず、映画、漫画、アニメ、ゲームときわめてクロスオーバーであり、さらに言えば、本書に特徴的なのは、活字の中に詩歌が含まれていることである。


筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです