安倍元首相襲撃事件が社会につきつけた問題は、多岐に及ぶようである。その発端に関連して、社会的に一番注目を浴びているのは、容疑者の母親と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の関係であろう。
カルトの献金強要──2つの関連要因
母親に対して旧統一教会側から、「先祖供養」(「先祖」には亡き家族・親族も含まれることが多い)にからむ洗脳があった可能性が疑われる。宗教学者のひろさちやによれば、「先祖供養」を洗脳・誘導の手段として用いるカルトは多いのだという(ひろ『お葬式をどうするか──日本人の宗教と習俗』PHP、55-56p)。
実際、母親はある時期に夫を亡くし、他に長男(容疑者兄)の小児がんや抗がん剤によるその失明に悩み、また弟を交通事故で亡くしているという(「山上容疑者伯父に聞く 母入信の背景「長男が小児がん、抗がん剤で失明。これが一番大きい」」スポニチアネックス、2022年7月16日付)。容疑者は、(入信時、母親に対して)かなり激しい勧誘があったと述べているというが、旧統一教会側が献金を求める際、故人となった家族・親族にまつわる以上の不安を最大限悪用したに違いない。

統一教会(当時)の霊感商法により売られた「天運守護印」。3本で38万円=1987年3月ごろ
それにしても母親が行った献金は、常軌を逸している。報道によれば、夫の生命保険金や相続した土地の売却益等を含め、実に1億円に達したという(「容疑者母の献金「1億円超」 旧統一教会に、親族証言 安倍氏銃撃」朝日新聞2022年7月15日付)。
だがこの破格の献金が、疑われずに(?)なされた背景に、何があるのだろう。背景といっても全般的な社会的大状況を問題にしたいのではなく、カルトによる詐欺的なやり口を生む(もしくは同やり口への抑制を解除する)関連要因と思われる事柄について、思うところを書いてみたい。
それは、(1)既存仏教寺院に、(2)新宗教教団の教義・慣習に、関わる。