【ヅカナビ】タカラヅカを愛する落語家がなりきって見せる「花詩歌タカラヅカ」
可笑しいのに、最後には感動してしまう三つの理由とは?
中本千晶 演劇ジャーナリスト

あらゆる芸能において、模倣やパロディが盛んになることは、その芸能自体の隆盛を示す現象のひとつだと思う。
今や宝塚歌劇がまさにそうで、たとえば、高校の部活や大学の同好会でしばしば上演される。男子校である名古屋・東海高校の「カヅラカタ歌劇団」はチケット入手困難の人気ぶりだ。
タカラヅカファンの落語家によって結成された「花詩歌タカラヅカ」もその一例といえるだろう。7月31日、ついに念願叶って横浜にぎわい座での公演を観に行くことができた。ちなみにこれは、今年5月に大阪・天満天神繁昌亭にて上演されて大好評を博した公演の「東上公演」である。今回のヅカナビでは、タカラヅカ愛にあふれた熱演の様子をお伝えしよう。
ヅカネタ盛り盛り落語ですでにお腹いっぱい
まずは、前半に落語が4席ある。月亭天使さんの「田楽食い」、立川らく次さんの「寿限無」は古典落語だが、いずれもタカラヅカ風アレンジが加えられている。そして、桂春雨さんと桂あやめさんもタカラヅカやコロナ禍のご時世にちなんだ新作落語を披露する。ここまでで、すでにお腹いっぱいだ。
それにしても、皆さんこの後に本番(?)が控えているはず。とりわけ春雨師匠は主役のラダメスである。それなのに落語を軽々と語ってくださるのは流石だ。いや、これが本業なのだから当たり前なのかもしれないが……。ちなみにここまでが料金分で、後半は無料の余興ということになっているらしい。
落語家が大真面目になり切る『王家に捧ぐ歌』
そして後半がお待ちかねの「なりきりタカラヅカショー」だ。今年の演目は『王家に捧ぐ歌』である。
『王家に捧ぐ歌』は、オペラで有名な『アイーダ』をもとに作られた作品だ。歌中心で展開する1本物の大作で、劇中の楽曲はオペラとは異なるが、耳に残る名曲ばかりである。
古代エジプトの将軍ラダメスと、囚われの身となっているエチオピアの王女アイーダは互いに愛し合うようになる。だが、エジプトの王女アムネリスもまたラダメスを愛しており、ラダメスが自分と結婚して次なるファラオの座につくことを望んでいた。
ラダメスは両国の争いを終わらせるためにエチオピアと戦い、勝った上でこれを解放する。だが、エチオピア人の恨みが消えることはなく、争いのない世界で愛に生きたいと願う2人を悲劇に巻き込んでいく。
この作品、今年2月にも星組が御園座で公演したばかりで、トップスター礼真琴がその歌声で客席を圧倒したことも記憶に新しい。これを「花詩歌タカラヅカ」が描くといったいどうなるのか? 以下、名場面をいくつか、写真と共に紹介しよう。なお、写真は撮影自由の客席にて筆者が撮ったものである。
古代エジプト将軍ラダメス(桂春雨)がマントをひるがえしてさっそうと登場。思わず「私にも目線をください!」という気分になる。

ラダメスさま
ラダメスへの愛を告白してしまったアイーダ(笑福亭生寿)が、王女アムネリスの怒りを買う。ちなみに、アイーダの折檻に使うのは、やっぱりハリセンだった……。

アムネリスさまの怒り
エジプト戦勝の祝いの席にファラオ(桂あやめ)が降臨する。どんな望みも叶えようというファラオの言葉に対し、ラダメスが願い出たのは「エチオピアの解放」だった。

ファラオ降臨
戦いに敗れ、囚われの身となったエチオピア王アモナスロ(立川らく次)は、ハト(桂おとめ)を抱き、狂ったフリをしながら復讐の機会を虎視眈々と狙っていた…。

ハトちゃん
アモナスロらによるファラオ暗殺は成功する。裏切りの罪を問われたラダメスは地下牢へ。

地下牢へ
ラダメスとアイーダは、地下牢の中で平和を祈りながら死んでいく。

ラダメスとアイーダ
ファラオとなったアムネリスは、虚しい願いと知りながらも世界から戦いをなくすことを誓うのだった。

ラストシーン
笑って、笑って、免疫力も上がりまくったのに、ラストシーンでは不思議な感動が湧き上がってくる。2月の本家の公演がコロナ禍で初日延期になったときの辛い気持ちを思い出したが、そのときの心の傷も癒やされていく気がしたのだった。
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