なぜ死者のことを「ホトケさん」と呼ぶのか
[19]「ホトケ(仏)」という言葉に集約された日本人の信仰
薄井秀夫 (株)寺院デザイン代表取締役
ホトケという死者
「八丁堀の旦那、ホトケの身元が割れましたぜ」
テレビドラマの時代劇などで、死者のことを「ホトケ」と呼ぶ場面を見ることがある。
また「うちのかみさんが……」で有名な、アメリカのテレビドラマ『刑事コロンボ』でも、死者のことを「ホトケさん」と語る場面がたびたび出てくる。もちろん吹き替え音声で、翻訳家による英語からの翻訳である。ピーター・フォークが演じるコロンボ刑事が、毎回のように死者のことを「ホトケさん」と呼ぶのだが、不思議なくらい違和感がない。
家庭でも、亡くなった人のことを「ホトケさん」と呼ぶのは一般的である。「お盆にはホトケさんが帰ってくる」「仏壇のホトケさんに、お供えをしなきゃ」といった具合だ。
しかしご存じのとおり、ホトケとは仏様、釈迦牟尼如来や阿弥陀如来といった信仰対象のことである。

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ところが、日本では、死者のこともホトケという。つまり日本では、人は死んだらホトケになるのである。
もちろん、人が死んだら仏(如来)になるという考え方は、仏教にはない。仏教学的に言えば、明らかに間違いである。
しかし、日本人は何百年にもわたって、死者をホトケと呼んできた。現代人も、違和感なく死者のことをホトケと呼んでいる。この事実を無視することはできない。
なぜ日本人は、死者のことをホトケと呼ぶのだろうか?