玉川奈々福(たまがわ・ななふく) 浪曲師
横浜市生まれ。出版社の編集者だった94年、たまたま新聞で浪曲教室のお知らせを見て、三味線を習い始め、翌年、玉川福太郎に入門。01年に曲師から浪曲師に転じ、06年、玉川奈々福の名披露目をする。04年に師匠である福太郎の「徹底天保水滸伝」連続公演をプロデュースして大成功させて以来、数々の公演を企画し、浪曲の魅力を広めてきた。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
自由なスペースと教会で思い切りうなる。そして知った、旦過市場の火災
翌日のお仕事は、現地で税理士事務所を開いておられるAさん主催で、落語の三遊亭わん丈さんとの二人会。わん丈さんとはご縁があり、ここのところ数回、いろいろな会でご一緒させていただいていますが、前座の頃は「スーパー前座」と呼ばれていたという、気鋭の、現在「スーパー二つ目」さんです。
会場は、Aさんの税理士事務所のオフィスの2階。「ZATTA ZISSE」と名付けられた広いスペース。「雑多な実践の場」ということで、ここをAさんは多くの人に無償で……無償で! 利用してもらっているんだそうです(ZATTA ZISSE)。
演芸の世界においては、ふつうは演者は正面から互いの芸を見ることはご法度とされています。だから、袖からそっと見る。けれど、今回はわん丈さんの落語を奈々福が正面から鑑賞する、奈々福の浪曲を、わん丈さんが正面から……?
「見ていいんですか?」
「はい、お客さんと一緒に、ぜひ、楽しんでほしい」と、Aさん。
正面にわん丈さん座ってるの、ヤだけど(笑)……こっちは正面からわん丈さんの落語にどっと沸く客席に交じって見られるのは最高でした。
Aさんのお知り合い限定の演芸会。とっても反応のいい明るいお客様で、会場の音の響きも素晴らしく、気持ちよく一席やらせてもらいました。
面白かったのは、税理士であるAさんがトークコーナーでおっしゃったこと。
「僕たちは、計画の中で仕事をしているでしょ? 予算案があって、収支決算があって、それに従って仕事をする。でも、奈々福さんたちは、予算案がないでしょ? 話を聞くと、計画も……できないですよね。本当に、偶発的な仕事の中で、過ごしている。どうやって生活しているのか、僕たちには想像できないんで、話聞きたいと思って」と。
私は、会社員生活も経験していますから、「計画の中で生きる」こともしてきました。
でもいまは、たまたまいただいたご依頼を受けて、たまたま日々がなんとかつながっていく……Aさんおっしゃるとおり「偶然生きてる」人生になってます。
「不安は、ないの?」
……慣れた(笑)。
そうそう、今日いくらいただけるのか知らないままにするお仕事のほうが多いですよ、契約書とか、ない仕事も多いし。
「……信じられない」
わはは、そんなもんです。信頼だけで成り立ってる。