植民地支配下での「人道に反する罪」を問う動きが強まっている
2022年08月23日
「徴用工」問題をめぐるデッドラインが目前にせまっている。2018年の韓国最高裁による日本企業への賠償金支払い命令、およびそのための韓国内資産の差し押さえ・現金化の動きが、最終局面に近づいているからだ。
私はこれまで、韓国は国際法に違反しているという日本政府の言い分に正当性はなく、日本政府は国際問題であろうと民事に介入すべきではないこと(「徴用工問題では、日本政府こそ「国際法違反」を犯している」、「徴用工問題で、日本政府は民事事件に介入してはならない」)、元徴用工の個人的な賠償請求権は「日韓請求権協定」があろうと放棄されていないこと、徴用工を使役した企業は自らの責任において元徴用工に賠償すべきこと(「河野外相こそ無礼。日韓関係を考える最低限の条件」、「元徴用工への補償は日韓請求権協定があっても可能」)、等を論じた。
本稿では、21世紀に入り世界各地で進行している、人権救済へ向けた動きを視野におきつつ、以上を補強したい。その動きとは、かつての植民地支配下および奴隷制下で、被支配人民に加えられた「人道に反する罪」(ジェノサイド、虐殺、奴隷化、強制労働等)に対する救済の動きである。
日本は、各種懸案の問題において国際的な流れから遅れることが多い。近年目立つのは、先進的な先住民対策やジェンダー主流化からの立ち遅れである。焦眉の徴用工問題、広くは植民地支配問題においても同様である。だがグローバリゼーションが進展した今、主権国家といえども国際社会の理解なしには何事もなしえない。国際社会における問題の対処法を尊重せずにはすまされない。
日韓間のトゲである徴用工問題(より広くは強制労働問題)は、植民地化・奴隷制が生みだした民族・人種間の差別構造と深く関係する。この点を強く問題化したのは、2001年に南アフリカ共和国ダーバンで開かれた通称「ダーバン会議」である。
これは人種差別、外国人排斥等に反対する会議である。そして人種差別等の根は、かつての植民地支配や奴隷制にあると見なされ、その視点に立脚した「宣言」および「行動計画」は、その後の脱植民地化および脱奴隷制を求める運動に大きな影響を与えた。
この運動では、何よりジェノサイドが問題化されるが(「謝罪・補償は、ジェノサイドに対しても求められている」)、同時に多かれ少なかれ強制労働に目が向けられてきた。植民地化は資源収奪のために、現地人民に対する強制労働を組織化するのが一般的だからである。本国への拉致を伴う奴隷制にあっては、その点は顕著である。
そして、徴用工問題においてもそれが見られる。
1939~45年、朝鮮人徴用工が日本各地で使役されたが、彼らの多くが、いかに苛酷な労働を強いられたか。
例えば、危険との悪評が高かった長生炭鉱(山口県宇部市)。同炭鉱の坑道が1942年、落盤事故によって水没し(水非常)、183人もの労働者が犠牲となったが、そのうち実に136人は朝鮮半島の出身者だった。総じて鉱山は危険な場だったが、同炭鉱は特に危険だからこそ朝鮮人が多く用いられていたのである。そして彼らの遺体は今でも海底に沈んでいる(長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会)。
これはおそらく最も陰惨な例だが、炭鉱、鉱山や土木・建築現場に見られた、劣悪な条件下での長時間労働、粗末な食事、日本人との賃金差別、逃亡を防ぐための監視・監禁・暴行、傷病時の放置・労働強制等の事例が数多く報告されている。
それにもかかわらず、歴史修正主義者はこれらの事実を隠蔽しようとしてきたが、政府がその旗振りをしてきた事実は世紀の醜聞と言うべきである。そもそも、
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