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「ちむどんどん」が描く戦争体験に「心」が動かされない夏

矢部万紀子 コラムニスト

 朝ドラをもう10年以上、1日も欠かさず見ている。振り返れば、良い作品があってダメな作品があった。だから、ダメな朝ドラとの付きあい方もわかっているつもりだ。

 「ちむどんどん」はダメだけど、どうも勝手が違う。これならいっそ、あさっての方向に全力で進んでくれる方がましだと思いさえする。「ちむどんどん」、あさってには行っていない。「良い朝ドラ」のセオリーを踏まえている。なのに心が動かない。

 朝ドラに挑む脚本家や制作担当者なら、多かれ少なかれセオリーは学ぶはずだ。が、「ちむどんどん」はなぜか「勉強してつくりました」感が強い。暢子(黒島結菜)というヒロインの人物像がそもそもそうだ。何度も書いているが、朝ドラのヒロインはみな「何者かになりたい」女子だ。すぐに道が見つかるか見つからないか違いはあるが、「何者か」に向けて歩く。

 暢子もそうだ。が、どうにも単純だ。高校の文化祭で料理が喜ばれると「東京に行って、コックさんになりたい」、自分の結婚式で出した沖縄料理が好評だと「沖縄料理のお店を開きます」。突然、大勢の前で宣言する。朝ドラですから何者かを目指させます、元気に宣言させます、何か問題ありますか? そう言われているようで、返答に窮する。

「ちむどんどん」の4人きょうだいたち。(左から)妹役の上白石萌歌さん、兄役の竜星涼さん、黒島結菜さん、姉役の川口春奈さん(右から2人目)=2021年12月、沖縄県うるま市 
拡大「ちむどんどん」のヒロインときょうだいたちの行く末は? (左から)妹役の上白石萌歌さん、長兄役の竜星涼さん、主役の黒島結菜さん、姉役の川口春奈さん=2021年12月、沖縄県うるま市

 まあヒロイン像は幅広くていい。暢子の単純さもありとしよう。が、「戦争」の描き方になると、それはちょっと別な気がする。学びました、これでいいですよね。そう感じさせるのは、違うように思う。

 主要登場人物たちと戦争の関係が一挙に描かれたのは7月18日からの第15週で、評価する声もあった。だけど私の中で動いたのは、心でなく脳。感動せず、分析してしまった。暢子の父・賢三(大森南朋)の戦争体験が、過去の名作朝ドラを思い出させた。学んでもいい。が、学んだだけでは困る。そんな困惑がいまも残っている。

 賢三は暢子が小学生の時に亡くなっているから、彼の体験は主に妻・優子(仲間由紀恵)の言葉と回想シーンで描かれた。賢三は中国に出征した、戦後は戦地の話はほとんどしなかった。そんな説明をする優子の台詞にこうあった。

 「ただ一度だけ、すごく後悔してることがあると言ってた。まくとぅそーけーなんくるないさー。自分が正しいと思うことを守れなかったことを、すごく悔やんでいたと思う。帰ってきたばかりの頃は、寝ている時、『ごめんなさい、ごめんなさい』と、うなされていたからね」

 「まくとぅそーけーなんくるないさー」を説明する台詞はなかったので、ここでもそのままにさせていただく。次に回想シーンになった。朝、太陽の方を向いて賢三が頭を下げている。横には暢子と姉と妹。兄が横から「父ちゃん、毎朝、何をお祈りしてるわけ?」と尋ねる。「お願いしたいことと、謝らないといけないことがあるわけさ」と答えた。

 中国で何かがあったから「ごめんなさい」とうなされ、おてんとうさまに謝っている。これは、日本軍による「加害」の示唆だろう。そう思いながら見ていると、賢三の叔母・房子(原田美枝子)が戦争を語るシーンに変わった。

 房子は暢子の大叔母であり、暢子の修業した銀座の一流レストランのオーナーだ。偶然が重なりまくって巡り合ったのだが、その話は書かない。房子は空襲で生き別れた妹を探しながら、鶴見の闇市で屋台を開いていた。そこにやってきたのが、中国から帰った賢三。戦前の賢三を知る房子は、「明るかった賢三が、まるで別人。笑わない男になっていた」と語る。その台詞で、勝手に確信した。「カーネーション」を学んだな、と。

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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。最新刊に『雅子さまの笑顔――生きづらさを超えて』(幻冬舎新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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