日本政府は「人道に反する罪」への責任を認めるべきだ
2022年08月26日
私は前稿で、元徴用工問題との関連で踏まえられるべき、国際社会に見られる近年の顕著な運動、つまり植民地支配・奴隷制下での強制労働による人権侵害を救済しようとする運動について記した。この現実を前に日本政府は民事への介入をやめ、元徴用工に対し加害責任を有する企業が自ら率先して賠償を行うのに任せるべきである、と。
元徴用工の強制労働に関わった日本企業は直ちに謝罪し賠償すべきだ
だが、他にもさらに問われるべき問題がある。これは焦眉の問題とは言えないとしても、日韓間の友好的な関係を構築するために、日本政府・国民がいつかは真摯に向き合わなければならない問題である。
それは、(1)近年深刻に問われている、強制労働にも増して恥ずべき「人道に反する罪」と言うべきジェノサイド(多民族・多人種に対する集団殺りく)である。ひいては、(2)強制労働を含む「人道に反する罪」を可能とした一大要因としての植民地支配そのものである。
いずれの責任からも、日本は逃れられない。徴用工問題も、これらに関する展望下に図るのが望ましい。
後者(2)の植民地支配からふれる。
これを表だって問題化するきっかけとなったのは、前稿に記した2001年の「ダーバン会議」である。同会議は、民族・人種差別、外国人排斥を通じて植民地支配を問題化した。その影響はじわじわと世界各国に及んでいる。
ここで特筆すべきは、イタリアが植民地支配そのものへの謝罪と補償を行ったという事実である。
2008年イタリアは、植民地支配を通じてリビアに加えた損害を謝罪すると同時に、補償のために25年間に50億ドル(当時の換算で約5400億円)を投資するという友好協定を結んだ(2008年8月31日付AFP BB News)。
これは、後にリビアでNATO(北大西洋条約機構)を巻き込む政変が起きたために実質的に凍結される事態に陥ったが、植民地支配そのものを問題化した点で、脱植民地化運動の画期的な成果と評価できる。
前者(1)の植民地支配下でのジェノサイドを問題化する動きは、より明確な流れとなっている。
植民地化の後、資源略奪等をめざして現地人の搾取・強制労働がしばしば組織化されるが(前稿)、それがジェノサイドに結びつく場合もあった。だがジェノサイドは一般的に、(a)植民地化の過程で、あるいは(b)植民地化後に起こった抵抗運動や独立戦争の過程で、引き起こされるのが普通であろう。
日本によって朝鮮で引き起こされたのは、主に前者(a)のジェノサイドである。
日本は1894年、朝鮮支配をめざして「日清戦争」を起こすが、その過程で、反封建・反帝国主義に立った東学農民軍に対するジェノサイドに打って出た。当時、参謀本部の実質的なトップである川上操六は、同農民軍を「ことごとく殺りくすべし」と命じた(井上勝生他『東学農民戦争と日本──もう一つの日清戦争』高文研、65p)。
この命令の下、日清戦争による日本人死者をはるかに上回る3~5万人もの農民が、日本軍に殺されたのである(加藤圭木他『日韓の歴史問題をどう読み解くか──徴用工・日本軍「慰安婦」・植民地支配』新日本出版社、114p)。
その後日本は、日清戦争後のこう着した状態を打開せんものと朝鮮王后の暗殺(1895年)等を引き起こしたが、これに対して大規模な抗日義兵闘争が巻き起こった。そして日本はこれをも容赦のない鎮圧の対象とし、1万8000人近い朝鮮人が犠牲になった(海野福寿『韓国併合』岩波書店、188p)。
また日本による植民地支配下にあって独立への意志を明示した「三・一運動」(1919年)は、流血の下に葬られた。立ち上がった民衆は身に寸鉄を帯びなかったにもかかわらず、その死者は7500人にのぼった(加藤他、同前)。
ダーバン会議以降、かつての植民地国から、抵抗運動・独立戦争時のジェノサイドに対する謝罪・補償等の要求がくり返し出されているが(後述)、日朝関係では、少なくとも前記ジェノサイドについて、そうした話は耳にしたことがない。だがどういう形にせよ、今後、これらの問題は改めて問われるようになるのは、もはや避けえないだろう。
日本国内で起きたジェノサイドについてさえ、謝罪はもちろん調査さえ満足に行われていない。
関東大震災(1923年)のおり、いまだに正確な実態がつかめないが、1500人弱~6500人強(加藤直樹『九月、東京の路上で──1923年関東大震災ジェノサイドの残響』ころから、171p)もの在日朝鮮人が、警察・内務省等が増幅し権威づけた流言飛語に基づいて、在郷軍人を主にした自警団、および警察・軍によって虐殺された。
かつて東京都知事は、
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