登山教室を深掘りしたら結局教育論に行きついた
2022年08月30日
4年前からプライベートで登山教室を開いているのですが、先日のお盆休み、8歳児(小学2年生)と6歳児(未就学児)を連れて富士山に登ってきました。私自身も7歳1カ月(小学1年生)で富士山に登頂しましたが、自分が育成した後進が自分の記録を抜かすのは、実に気分が良いものです。
しかも、2日目は登頂を諦める人が続出するほど、強風が吹き荒れる荒天。疲労や高山病で倒れ込む大人たちを追い抜いて、体力的にも精神的にも余裕を持って下山できたことは、これまで引率した身として誇らしく思います。
私はロングハイクが好きで、「日帰りゼロ富士ゼロ(海抜0mの海辺から出発して登頂した後に再び海辺に戻る)」や、浅間神社発着の日帰り全4ルート利用に挑戦したことがあるのですが、小さな子供を引率しての登頂は、個人の挑戦とは異なる達成感を味わうことができました。
「未就学児で富士山に登った」と聞くと驚く人も多いかもしれませんが、実は昔に比べると珍しくなくなっています。たとえば、俳優の釈由美子さんの息子さんは今年6歳(年長)で登頂に成功しています(釈由美子オフィシャルブログ「本日も余裕しゃくしゃく 『富士親子登山』」、2022年8月2日)。
また、山梨県在住の小学生登山家・伴野嶺さんは4年前、保育園児のときに、富士山やそれよりも難易度の高い山が複数含まれる「山梨百名山」に母・直美氏と一緒に挑戦し、わずか6歳で全山登頂するという驚異的な結果を残しています(朝日新聞『6歳の保育園児、山梨百名山を踏破 「次は日本百名山」』2018年2月16日)。
このように、大人たちによる的確なサポートのもと、意思と能力を備えた子供たちが低年齢でタフな登山に挑戦するケースが増えているのです。
他のスポーツとは異なる、子連れ登山独自の魅力としては、「対人間」ではなく「対自然」にあると思います。人間関係のトラブルはほぼありませんし、個々の実力に合わせて自由にアレンジできます。誰かと比べて劣等感を覚えることもなく体を動かせます。また、街中の生活では得られないような多様な刺激を自然の中で得られます。
ですので、安全に子供を引率できるだけの実力を身につけた上でぜひ挑戦して欲しいと思う一方で、実際に子供を山へ連れ出したものの、嫌がるようになってしまったという話はよく耳にします。
極めつきは学校の遠足でしょう。遠足で山登りをする学校は近年減っているものの、それをきっかけに嫌いなったという小学生は数知れず。そもそも、大人ですら「山登りに行く人の気が知れない」という人が多くいる中、何も対策を講じなければ嫌いになるのも当然です。
実は、私が連れていった子供たちも、もともと山登りが好きな子ではありませんでした。むしろ下の子は、でこぼこの山道が嫌ですぐに“ギャン泣き”を始めるので、常に抱っこ紐を利用していました。
上の子も、基礎的な運動能力は高いものの、メンタルの乱高下が非常に激しいタイプで、ダウナー状態の時には、山に行くことを嫌がることが何度かありました。
私は子供の頃に親に連れられて頻繫に山登りをしていましたが、特に嫌な思いをしたことはありません。ですから、昔からやせている人がダイエット法を知らないのと同様に、どうすれば子供が嫌な気持ちにならずに済むか、当初は全く見当がつかなかったため、四苦八苦したことを今でも覚えています。
一方で、アドバンテージとなったこともあります。それは、大人の言うことを聞かせようとする管理志向の日本型学校教育に対する反発心を子供の頃から強く持っていたことです。そのため、自分が子供を教育する立場になった際には、「子供の自己決定の機会を可能な限り設けよう」という方針を持っていました。
つまり、「エンパワーメント(≒権限委譲・能力開花)」の姿勢です。具体的にはそれぞれの発達段階に応じて、以下のようなことを心掛けました。
・山全体を大きな公園に見立てて、なるべく自由に遊ばせることを基本とする。
・とりわけ、歩き続けるか、何かに興味を示して道草するかの選択は、日没やバス等の時刻は気にしつつも基本的に子供に任せる。
・単独行の話をしたり、写真を見せたりして、「自分も行く!」と意欲を示すようにさせ、逆に気乗りしない時期は長めのブランクをつくる。
また、声かけをする際も、以下のように可能な限りエンパワーメントに努めています。
(1)「もうすぐ行くとベンチがあるから、そこで休憩にしよう!」→「もうすぐ行くとベンチがあるけど、そこで休憩にする?」
・質問する形にして判断は子供にさせる。
(2)「そこ、危ないから気を付けて」「手を握って」→「そこ、危なそうだけど、大丈夫?」「手を貸そうか?」
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