映画界のジェンダーギャップ、その現実を見つめる
2021年の大作で女性監督はゼロ、意思決定の場のバランス是正を
天野千尋 映画監督
「ない、ないづくし」の現場で、「え、妊娠?」

gnepphoto/shutterstock.com
現在、映画スタッフの大多数はフリーランスであり、労働基準法が適用されず、最低賃金や時間外労働のルールがない。大抵、仕事のオファーは「期間は○ヶ月で、ギャラは○円」という超ざっくりした口約束でされることが多い(そもそも私のようなキャリアの浅い監督の場合、納品するまでギャラを提示されないことも多い)。
契約書がなく、業務の細かい取り決めもないので、当然、長時間労働が常態化する。実質的に機能する労働組合もなく、労働者の権利を主張できるような状況ではない。仕事を与える側/もらう側という非対等な関係性においては、細かいことを言うと今後仕事を失うかもしれない……という心理も少なからず働く。閉鎖的で上下関係のある社会で、ハラスメントも起きやすい。予算がないことの皺寄せが、立場の弱いスタッフに際限なくのしかかってくる。
若いうちは「映画が好き」「映画に関わりたい」という情熱でどうにか頑張っていても、出産や子育てなどの事情が出てくると、連日連夜続く現場で働くことは難しくなる。特に女性は、家事、育児、介護など、無償ケア労働を担わざるを得なくなることが多い。せっかくアシスタントで経験を積んでも、上のポジションに上る前に業界を去ってしまう優秀な女性が沢山いる。
個人的な話をすると、私は2014年に妊娠した。その時お世話になっていた女性プロデューサーにその旨を告げると、「え、妊娠しちゃったの?」「せっかく監督してこれからって時だったのに…」と残念がられたことを鮮明に覚えている。祝福してくれるだろう、と決めてかかっていたので、とても驚いた。そして「天野さん、もう映画は撮れないと思うよ」と、はっきりと言われた。その時は、意味が全く分からなかった。育児の大変さや映画業界の構造を理解していなかったのだ。
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