井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者
1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍、科学書などの編集を経て、現在は漫画配信サービスの編集長。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』をめぐって
「陰謀論」に騙されてばかりの恥多き人生を送っております。
騙されまいとするあまり、今では常識になった事件の情報提供を、陰謀論だと一笑に付してしまった数年前の大失敗もあります。
ただ漫画編集者になった現在では、この陰謀論、もっといじりたいんですよね。通貨発行権と財閥支配をめぐる陰謀論をエンタメに仕上げた傑作『望郷太郎』(山田芳裕著、講談社)を担当している身としては、もっと陰謀論を知りたい、我々がなぜ騙されるのか分かりたい、という欲が止まりません。
そこで今回の「神保町の匠」では、世界各地で諜報の現場を取材してきている国際ジャーナリスト、山田敏弘さんに、「陰謀論の現場でいま起きていること」を教えてもらうことにしました。
──山田さんの新著『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、面白く読みました! タイトルには出ていませんが、主人公の一人はトランプだったのですね。まさに陰謀論の世界の中でずっと生きてるお金持ちおじさん。
山田 ええ、2016年のアメリカ大統領選挙では、トランプの勝因のひとつに「ディープステート」という陰謀論がありました。
──いきなり知らない単語です。何ですか、それ。
山田 アメリカは政権交代のたびに政府職員が入れ替わりますが、もちろん情報機関、軍、あと国務省などの人は替わらないわけですよ。だから彼らがエスタブリッシュメントと言われ、国の方向性を裏で全部決めている、と思われている。ここに「ディープステート」つまり「深い、政府の中のもうひとつの政府」がある、というわけです。
──日本の「上級国民」みたいなものですか。
山田 そうですね。トランプ周辺に言わせると、そこはみんな民主党だと。トップにはオバマ、クリントンといった面々がいて、ワシントンDCにあるピザ屋さんの地下に小児性愛の売春組織をつくっていて、そこに出入りしている、とまでいうのです。
──それで関係ないピザ屋が襲われたりしたんですか。
山田 そうです。でもこうした事件を煽動したとしてトランプが批判されると、それも全部ディープステートの陰謀だ、闘わねばならない、となる。こんな主張を大真面目に語る極右のラジオ番組が人気を博して、多くの人たちが、車の中で聞きまくって洗脳されてしまった。