生徒講評委員会、言葉探し、語り合う
2022年09月20日
工藤千夏さんによる高校演劇全国大会レポートの後半です(【上】はこちら)。舞台表現の多様性を考え、今後の課題にも目を向けます。
茨城県立日立第一高校『なぜ茨城は魅力度ランキング最下位なのか?』、栃木県立栃木高校『GEKKO』、兵庫県立伊丹高校『晴れの日、曇り通り雨』は、いわゆる学園ものコメディと呼ばれるジャンルの作品である。どの作品も悪役に至るまで人物造形が実に魅力的で、演技者がそのキャラクターを愛しむように演じている。彼らをずっと観ていたい。そして、また会いたくなる。
茨城県立日立第一高校『なぜ茨城は魅力度ランキング最下位なのか?』(作:高野心暖と演劇部)に登場する茨城多栄子、東京一華、佐賀佳乃、大阪夏希は、苗字の通り、各都府県のイメージを背負うキャラクターだ。
関東大会で初めてこの作品を観たとき、私は、田舎者コンプレックスの克服の物語だと思った。だが、全国大会で再度観て、愕然とした。茨城多栄子はコンプレックスなどかけらも持っていない。勝負に勝つために東京が行った卑怯な行為を、茨城が全く疑わないどころか感謝したその瞬間、東京は完全に敗北したのだ。しかも、茨城はその勝利にさえ気づかない。うん、これは無敵だ。茨城の神々しいまでの素直さに完全にノックアウトされる。
栃木県立栃木高校『GEKKO』(作:栃木高校演劇部)に登場するのは男子ばかりの進学校の生物部員たち9人。ヤモリを飼育する物静かな「モリヤ」、吃音を抱え、変形菌(真性粘菌)を飼育する「モジ君」、医者にはならないと宣言している開業医の一人息子「部長」、神仏を信じていない寺の跡取りにして徹底した合理主義者「住職」、昆虫食に凝る「グルメ」……。その生態は極めて興味深い。
本編の前後には、熱いプロローグとエピローグ! コロスが情熱的にシャウトする。「一匹のヤモリがこともあろうか夜空に浮かぶお月様に恋をした」。そして、秀逸な落語のサゲのような決め台詞は、『GEKKO』のタイトルコール! この切ないラブ・ストーリーに個人的にロマンチック部門最優秀賞を差し上げたい。
兵庫県立伊丹高校『晴れの日、曇り通り雨』(作:古賀はなを)は戯曲の人物紹介が秀逸なので、まず引用したい。
中村愛=友達との共感を支えにしている。
平塚夏樹=植物だけが友達。
岡崎―=名言言いがち。眼鏡クイっしがち。
小林美月=生物部部長。ニコニコの狂気。
浦井裕也=誰もが認める調子乗り。
これは彼女が、嘘をつかずに自分のままでいられる真の友人関係を得るまでの物語である。個性的な日陰の植物を愛でる園芸部の平塚、敬語でしか話せない岡崎は実に個性的。観客は笑いながら共感を積み上げ、花壇を脅かす敵として登場する小林さえも憎めない。
12作品中、唯一の生徒創作。作者である古賀はなをさん(夏樹を演じている)は、上っ面だけのコミュニケーションが苦手な3人の心が通じ合うまでの過程を繊細に描く。語りすぎないセリフも、ジャブのように効き続けるギャグも巧みで、フリージアの花言葉を劇中では発せず、「あとで調べて」としか言わないあたりも心憎い。
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