林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト
フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「メロドラマの一角をろう者が当たり前に担ってほしかった」
第79回目を迎えたベネチア国際映画祭(2022年8月31日~9月10日)のコンペティション部門で、「唯一のアジア作品」(注)として登場したのが『LOVE LIFE』(全国公開中)だ。矢野顕子の同名楽曲に惚れ込んだ深田晃司監督が、「いつかこの歌をモチーフとした映画を作りたい」と考えたのが出発点。その溢れる想いは20年の時を経て、ベネチアの地で大きく花開いた。
(注)2022年ベネチア映画祭のコンペ作品にイラン作品が2本あるが、ここでは外務省の公式サイトの分類に従い、イランは「アジア」ではなく「中東」とする。
主人公の妙子(木村文乃)はホームレス支援を行うNPOで働く女性。結婚1年目の夫・二郎(永山絢斗)、ひとり息子の敬太(嶋田鉄太)と団地に住む。だが、当たり前に続くと思われた生活は、ある悲劇をきっかけに一変。消息不明だった息子の血縁上の父でろう者の男・パク(砂田アトム)が、妙子の生活、そして心に入り込んでくる。傷つき迷いながらも、手探りで本当の人生を手繰り寄せてゆく主人公の心に並走するメロドラマの秀作だ。
2016年のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門審査員賞を受賞した代表作『淵に立つ』で、人間の運命を容赦なく切り取った俊才が、矢野顕子の楽曲の包容力をまとい、さらに愛の深みへ辿り着いた。映画を抱え世界を移動し続ける監督に、ベネチアの地で話を伺った(インタビューは9月8日に実施)。
──当初、本作は深田監督になじみ深いカンヌ映画祭に出品されるかと思いきや、ベネチア映画祭に決まりました。
深田 カンヌにするかベネチアにするかという選択は、配給会社や制作会社が話し合って、日本の公開時期も含めベネチアが良いのではとなりました。結果的に日本での公開間近に映画祭の賑わいを生かすことができて良かったです。
──コンペ部門全23本の中で本作が唯一のアジア映画ですから、アピールにもなりました。
深田 それには驚きました。上映も盛況でしたが、アジア映画好きがとりあえず見に来てくれたのかなと考えています。
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