林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト
フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「多様な人たちが表現の当事者になれるようにすることが最優先です」
第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、好評を博した『LOVE LIFE』。前稿では主に作品内容について話を伺った。
今回は、映画業界全体や未来を見据え精力的に行動する深田晃司監督に、本作の製作事情に加え、持続・発展可能な映画界の共助システムを提言する「action4cinema/日本版CNC設立を求める会」(注)や、コロナ禍で苦境に陥ったミニシアターの緊急支援策として立ち上げられた「ミニシアター・エイド基金」などの活動についても振り返っていただいた。
(注)CNC(読みは“セーエヌセー”/Centre national du cinéma et de l'image animée/国立映画映像センター)は、フランス⽂化省が管轄する映像産業の司令塔となる公的機関。1946年に創設。
──映画『LOVE LIFE』はいくつかの会社で共同製作されましたね。大きくはベネチアでプロデューサーが記者会見に出席されていた日本のメ~テレ(名古屋テレビ)とフランスのコム・デ・シネマですか。
深田 あとは他に何社かご参加いただきました。
──複数企業からの出資で作品を作る「製作委員会」は悪いイメージで語られることが多いと思いますが、今回はいかがでしたか。
深田 そうですね。日本映画のよくないところのトップクラスに毎回上がるのが「製作委員会制度」ですよね。
──製作委員会には、出資者それぞれが権利を主張して調整が難しかったり、作品への思い入れが分散されたり、あるいは口出しをする人が増えるというイメージがあります。でも『LOVE LIFE』は監督が目指すものをしっかり作られたという印象があります。
深田 製作委員会の弊害というのはあるとは思いますが、幸いにも自分は今までクリエイティブな面では特別に困ったことはありません。私は自腹を切って自主映画を撮ることからスタートしましたが、おかげさまで一緒に映画を作りたいと思ってくださる方が増えました。『淵に立つ』『よこがお』『本気のしるし〈TVドラマ再編集劇場版〉』にしても、いわゆる自主映画ではありませんが、気持ちとしてはどこかで自主映画の延長線上にあるつもりです。「作りたいものを実現するために、いろんな人の力を借りている」という思いはあまり変わっていません。願わくは、予算と撮影日程がもうちょっと増えればいいなあと思いますが(笑)
──それでは「内容をこう変えてほしい」といった横槍があちこちから入る、ということはなかったのでしょうか。
深田 今回の作品に関してはなかったです。もちろん脚本会議やキャスティングではプロデューサー陣も発言しますが、監督の意思を最終的には尊重してもらえています。ただ、それはおそらく幸運な例であって、そうではない話ももちろん耳にします。日本独特の製作委員会制度は助成金の少ない社会で経済的なリスクを分散することによって映画製作を行いやすくするための一つの方法ですが、同時にそもそもの経済リスクを減らしていく仕組みも考えていかないといけません。
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