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再び『女の一生』に臨む、大竹しのぶ×段田安則インタビュー(上)

宝石のような台詞の数々を大切に届けたい

橘涼香 演劇ライター

 2020年に大竹しのぶが主演し絶賛を浴びた不朽の名作『女の一生』待望の再演が、10月18日~23日東京・新橋演舞場で上演される(10月27日~11月8日京都・南座。11月18日~30日福岡・博多座でも上演)。

 『女の一生』は第二次世界大戦終戦直前の昭和20年4月に森本薫が文学座に書き下ろし、杉村春子が生涯を通じて947回主人公・布引けいを演じ続けた日本演劇界に燦然と輝く不朽の名作。明治、大正、昭和の激動の時代を生き抜いた女性の人生を通じて、どんな困難を前にしても生き抜いていく、という現代に通じるメッセージが込められている。

 この名作に新たな息吹きを吹き込んだ主演の大竹しのぶと、演出と同時に布引けいの夫となる堤伸太郎を演じた段田安則が、初演の思い出や作品の魅力、更に2022年のいま『女の一生』に取り組む意義を語り合ってくれた。

いま布引けいをやれるのはこの人しかいないんじゃないか

大竹しのぶ(右)と段田安則=岩田えり 撮影〈大竹しのぶ/ヘアメイク:新井克英・段田安則/スタイリング:中川原寛(CaNN)、ヘアメイク:藤原羊二(UM)〉拡大大竹しのぶ(右)と段田安則=岩田えり 撮影〈大竹しのぶ/ヘアメイク:新井克英・段田安則/スタイリング:中川原寛(CaNN)、ヘアメイク:藤原羊二(UM)〉

──杉村春子さんが長年演じ続けられた名作中の名作を、2020年に大竹さん主演、段田さん演出・出演で初めて上演されましたが、作品についてどう感じられたか教えてください。

段田 2020年のコロナ禍に新橋演舞場で上演することができたのですが、実際に演出し、俳優としても演じてみて、森本薫さんが文学座に書き下ろした宝、不朽の名作だということが、改めてわかりました。それをこの稀代の名優大竹しのぶが演じる。この人しかいないのではないかという配役でできたのは、素晴らしい機会でした。

大竹 本当に素晴らしい戯曲で、杉村春子さんが947回演じられましたが、それだけ長い間やり続けたいと思われたことが、戯曲と向きあってよくわかりました。演出家の段田さんも稽古場で「これは本当に良い本だ、やればやるほど深い。僕たち役者は本に書かれたことをそのままやればいいんだ」と言っていましたよね。

段田 演出はたいしたことないですから(笑)。俳優さん中心でご覧いただければと思っています。

大竹 初演が昭和20年4月で、戦時中にこの芝居をやろうと幕を開けたところに、まず胸が迫ります。いつ空襲警報が鳴って、幕が下りるかわからないという状況のなかでも、この芝居を届けたいと思われた気持ちが、ちょうど私たちの初演の時、コロナ禍の真っただ中でもお客様がいらしてくださる限り芝居を届けます!と思ったことと重なりました。

 杉村さんとは映像のお仕事でご一緒できる機会があったのですが、その時「あなたたちは良い時代に生まれたわね。私たちはやりたい芝居があっても憲兵が後ろに立っていて、すぐにダメと止められるような時代だったのよ。そんななかでも私たちはやりましたけどね」とおっしゃったんです。それがこの芝居なんだと思うと余計に感慨深いものがありました。2022年のいまも、劇場がコロナ禍以前に戻るにはまだまだというところがありますが、それでも来てくださるお客様に良い芝居を届けたいと思っています。

大竹しのぶ(右)と段田安則=岩田えり 撮影拡大大竹しのぶ(右)と段田安則=岩田えり 撮影

──お2人とも、戯曲が素晴らしいとおっしゃっていますが、特にここが、という点は具体的にありますか?

段田 森本薫さんが30代前半にお書きになった本ですが、何回か改訂されていて、今回は16歳ぐらいから56歳くらいまでという設定で上演します。若い時から夫婦の晩年に至るまでの心情をとってみても、30代前半でよくここまで書かれていると思いました。この辺りもこの作品の肝だと思っています。資料では大阪生まれの兄弟となっていて、そのせいもあるのか、いまの僕たちにも響く台詞でありながらどこか可笑しみも書かれている。そういった台詞の面白さは僕がとても気に入っているところです。そして布引けいの人生を通して、作品が時系列通りに進んでいきます。杉村春子さんへのあて書きでしたが、ヒロインの陰の部分、嫌な面もきちんと書き込まれている、多面的な描き方も素晴らしいと思います。

大竹 大変有名な台詞「誰が選んでくれたのでもない、自分で選んで歩きだした道ですもの」を大切にしなければという想いがありますが、それ以外にも宝石のような台詞がたくさんあって。明治、大正、昭和という激動の時代を健気なヒロインが明るく頑張って生き抜いたということではなく、嫌なところもたくさんありますし、人生ってそんなに甘いものじゃないんですよというものがあって、そこがとても面白いところですね。段田さんが演じる長男のことはそんな好きではないのに結婚させられて、冷え冷えとした夫婦を段田さんが本当にうまく演じられているのですが、時間が過ぎて許し合っていく、老いていく夫婦の寂しさと同時に、違う形の愛、「情」が生まれる。人生ってこういうことなんだなというのを3時間弱のなかで、目の当たりにできる作品なので、観てくださる方には色々なことを考えていただけたら嬉しいなと思います。

◆公演情報◆
舞台『女の一生』
東京:10月18日(火)~23日(日) 新橋演舞場
京都:10月27日(木)~11月8日(火) 南座
福岡:11月18日(金)~30日(水) 博多座
公式ホームページ
[スタッフ]
作:森本 薫
補綴:戌井市郎
演出:段田安則
[出演]
大竹しのぶ、高橋克実、段田安則、西尾まり、大和田美帆、森田涼花、林翔太、銀粉蝶、風間杜夫
〈大竹しのぶプロフィル〉
 1974年『ボクは女学生』の一般公募でドラマ出演。1975年 映画『青春の門 -筑豊編-』ヒロイン役で本格的デビュー。同年、連続ドラマ小説『水色の時』に出演し、国民的ヒロインとなる。以降、気鋭の舞台演出家、映画監督の作品には欠かせない女優として圧倒的な存在感は常に注目を集め、映画、舞台、TVドラマ、音楽等ジャンルにとらわれず才能を発揮し、話題作に相次いで出演している。
公式ホームページ
〈段田安則プロフィル〉
 劇団青年座附属の青年座研究所に入所し、第5期生として1981年に卒業。同年、野田秀樹主宰の「夢の遊眠社」へ入団し、1992年の劇団解散まで主力俳優として活動。その後、舞台のみならず、映像分野にも活躍の場を拡げ、シリアスもコミカルも巧みにこなす名バイプレイヤーとして人気を集めている。2009年の『夜の来訪者』で舞台演出に初挑戦し高く評価される。
公式ホームページ

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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