2022年10月04日
安倍さんの国葬における、菅前総理の弔辞が感動的だったと評判になった。
私はあれをリアルタイムで聞いていて、わりと何も思わずに聞き流してしまっていたので、その後にあれが「感動的な弔辞」と言われて、え? そうだったっけ? とあらためて全文を読み返し、映像も見直してみて、それでも個人的には何とも思わなかったけれど、「ああなるほど、こういうふうにすれば国民を感動させられるのか」ということは確認した。そして『ちむどんどん』について考えてしまったのである。
菅さんのあの弔辞の、どこが、見る者のツボをついたのか。わかりやすいところでいうと、「山県有朋」のくだりである。
安倍さんが岩波書店『山県有朋』(岡義武)を読んでいたというのは、なかなか絵になるセレクトである。故郷の先輩でもある、毀誉褒貶の大政治家を描いた本。途中まで読まれたそれが、主のいない議員会館の部屋にぽつんと残されている……。映像が浮かぶようで、さらにドラマチックだ。
しかし、それだけでは足りない。
そこで短歌が出てくる。山県有朋が伊藤博文を偲んで詠んだ歌。菅さんは2回繰り返してそれを読み上げた。
「かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ」
山県有朋には悪いがこの歌、いかにも石碑に刻まれそうな、典型的“政治家のつまらない(が、わかりやすい)歌”だと思う。
しかし、このつまらない歌を、菅さんが、首相の時にはさんざん文句を言われていたあの、感情の入らない、つまらなそうな声と口調で淡々と読み上げたら、なんかいい歌に聞こえてしまうという作用があった。あれが岸田首相によって読み上げられていたらもっと嘘っぽく、歌のダメさもよく伝わってしまっただろう。
私は、弔辞というのは、参列者の心を動かすことができるならば、どんな内容であってもいいと考えている。そしてこの弔辞はたくさんの人の心を動かしてしまったようで、その意味で「成功した弔辞」だ。その後、冷静な人がこの弔辞の文面のそこここにあるつっこみどころを今つっこんでいるという状態で、私もつっこみたいところはいっぱいあるが、ここで言いたいのはそのことではないので措いておく。
私が言いたいのは、『ちむどんどん』の話なのだ。
『ちむどんどん』がどうしてあんなことになってしまったのか。
菅さんの弔辞を見ていたら、『ちむどんどん』がなぜ失敗したか(失敗してますよね?)、そして最大の責任はどこにあるのか、を考えたくなったのである。
沖縄返還から50年に、沖縄で生まれた女性の一生を描く朝ドラ。素晴らしいコンセプトである。
そうと決まれば、ヒロインの暢子が魅力的だと思えるのがこのドラマの成功の第一歩だろう。
しかしそうはなっていない。
ヒロインと、兄姉妹の有様が若草物語を意識したものじゃないか、という話を聞いた時は「は?」となった。そんなこと、ミリも感じたことがなかった。『ちむどんどん』って、比嘉賢秀、あの何かとトラブルを持ち込む困った兄ちゃんと、妹の暢子の話だと思って見てたんだけど。これは何かに似ている……困った兄と頑張り屋の妹……そうだ、『男はつらいよ』だ! そうか、これは沖縄版『男はつらいよ』か!
べつに『ちむどんどん』が『男はつらいよ』に似てたっていいと思う。『ロミオとジュリエット』を元にして『ウエスト・サイド物語』ができたように、『男はつらいよ』を元にして『ちむどんどん』ができてたっていいではないか。というか、そうであってほしかった。そうしたらもうちょっとマシなドラマになってたんではなかろうか……。それは「パクれ」って言ってるんではなくて、『男はつらいよ』のドラマの構造から、人の心をいかにして動かしてるかを抽出して、それを応用してくれと言ってるのだ。
しかし、そういうふうにはならず、寅さんの妹は寅さんとよく似た、困った人で、困った兄と妹がいろいろ困ったことをするドラマでした。そのへんが『男はつらいよ』との差別化なのか。……いや、そもそもこのドラマの作者が「沖縄版『男はつらいよ』を描こうとしていた」のかどうかわかりませんが(たぶんちがうだろう)。
しかし、寅さんの妹が女寅さんだった、というテーマは、それを突きつめたらわりと面白い、今までにない朝ドラになったんじゃないかという気もする。思いっきりアバンギャルドな朝ドラで。もう21世紀なんだから少々ぶっとんだっていいじゃない。
しかしそうはならなかったのは、どうもはんぱに、朝ドラらしく、沖縄らしく、いい話にしようというスケベ心なのか自主規制なのか、そういうものが入り込んでしまったからではなかろうか。
『ちむどんどん』はネット上でとにかく評判が悪くて、主に責められているのが脚本家と
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