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現世とあの世のなぐさめに、関門海峡で語る意味

「ご当地浪曲」を海を挟んだ2会場で

玉川奈々福 浪曲師

その土地に埋まる「死」を思う

 昨年亡くなられた作家の小沢信男さんの代表作に『東京骨灰紀行』という作品があります。

 江戸からこのかたの東京で、一番人が死んだ場所はどこだろう。このアスファルトをひっぺがした下に累々たる骨灰がどれだけ埋まっているのだろうと、数多くの方々が亡くなった場所を歩き、その場所で起きたこと、東京の来し方、そして忘れ去ってきたものを訪ね歩いた記録でした。

小沢信男さん(2017年撮影)と著書『東京骨灰紀行』(ちくま文庫)

 この本の、担当編集者でした。かつて私は、出版社の筑摩書房で編集者をしていて、小沢信男さんの担当で、小沢さんと、この本の取材のために、一緒に街歩きをしたのでした。

 その経験があるから、というわけではないと思いますが、この土地の下に、どれだけの「死」が埋められているのだろう……と、旅先で、歴史上さまざまな事件があった場所に立つと、ふっと思います。

 お蔭様で、秋は旅公演が多い。今月は関門、大分、山口、宮崎、広島……と主に西方面にうかがいます。歴史ある町を訪問し、目の前の景色を見つつ、過ぎ去った歴史のかなたに思いをはせるのも、楽しいことです。

「ご当地」浪曲会を企画した

 10月8日、関門(下関+門司)で浪曲の公演をします。

 奈々福の今年最大の企画、「浪曲でつづるあなたの町の物語」全9公演の一つです。

 全国各地に赴いて、その地域の歴史や伝承、ご当地出身の人々の物語など「ご当地浪曲」を、既存の演目と新作浪曲で聴いていただくという企画です。
お客様は浪曲というメディアを通して、地元の文化を再発見することができる。浪曲師にとっては、もともと都市で発達した芸能である落語や講談と違って、かつては旅回りが主戦場だった芸能の、原点に帰って学ぶ意味もあります。

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