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「ちむどんどん反省会」の“正体”──ファンによるあるべき朝ドラへの希求?

ドラマとコメント両方の絡み合った全体が一つの作品となっていく

菊地史彦 ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師

 曖昧な記憶だが、朝ドラ『ちむどんどん』第1週のどこか、第1回か2回だったと思うのだが、沖縄・山原(やんばる)の比嘉家の上空からジェット機の爆音(空耳?)が聞こえてきた。

 「あ、この脚本家はやる気だな」。私はそんなふうに感じた。従来、沖縄を舞台にした朝ドラがまったく触れたことのない基地問題を扱うのではないかと思ったからだ。

 終わってみれば、ドラマが米軍基地に触れることはなかった(沖縄戦は初めて扱われた)。

 でも、脚本家の羽原大介は「やる気」だったのだと思う。国民的番組である「朝ドラ」とそれを見続ける視聴者との安定した関係に、ちょっとした不協和音を持ち込んだのだ。

黒島結菜さん=倉田貴志撮影2016年拡大ヒロインの比嘉暢子を演じた黒島結菜さん=2016年、撮影・倉田貴志

 もちろん、往々にして新奇性は違和感をつくり出す。こなれたものに親しんでいる人たちにとって、ルール違反はひどく疎ましい事態に見えるものだ。

 放映開始からいくらも経たないうちに、疑念や懸念の声が聞こえ出し、それが急速に批判や非難の言葉にヒートアップしていったことは、ご承知の通りだ。

 詐欺に懲りず何度もカネを家族に無心する“ニーニー”比嘉賢秀(ひがけんしゅう、竜星涼)や自分の思い込みだけで行動しまくる無鉄砲な比嘉暢子(ひがのぶこ、黒島結菜)の性格批判に始まり、彼女のコック帽の下のざんばら髪や1958年の新聞記事に載った「厚生労働省」などディテールの不備(当時は「厚生省」)、さらに次から次に大騒ぎを仕掛けては尻ぬぐいをしないシナリオの無責任に厳しい言葉が飛んだ。

/Shutterstock.com拡大Satome Yokote/Shutterstock.com

筆者

菊地史彦

菊地史彦(きくち・ふみひこ) ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師

1952年、東京生まれ。76年、慶應義塾大学文学部卒業。同年、筑摩書房入社。89年、同社を退社。編集工学研究所などを経て、99年、ケイズワークを設立。企業の組織・コミュニケーション課題などのコンサルティングを行なうとともに、戦後史を中心に、<社会意識>の変容を考察している。現在、株式会社ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター客員研究員。著書に『「若者」の時代』(トランスビュー、2015)、『「幸せ」の戦後史』(トランスビュー、2013)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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