ドラマとコメント両方の絡み合った全体が一つの作品となっていく
2022年10月06日
曖昧な記憶だが、朝ドラ『ちむどんどん』第1週のどこか、第1回か2回だったと思うのだが、沖縄・山原(やんばる)の比嘉家の上空からジェット機の爆音(空耳?)が聞こえてきた。
「あ、この脚本家はやる気だな」。私はそんなふうに感じた。従来、沖縄を舞台にした朝ドラがまったく触れたことのない基地問題を扱うのではないかと思ったからだ。
終わってみれば、ドラマが米軍基地に触れることはなかった(沖縄戦は初めて扱われた)。
でも、脚本家の羽原大介は「やる気」だったのだと思う。国民的番組である「朝ドラ」とそれを見続ける視聴者との安定した関係に、ちょっとした不協和音を持ち込んだのだ。
もちろん、往々にして新奇性は違和感をつくり出す。こなれたものに親しんでいる人たちにとって、ルール違反はひどく疎ましい事態に見えるものだ。
放映開始からいくらも経たないうちに、疑念や懸念の声が聞こえ出し、それが急速に批判や非難の言葉にヒートアップしていったことは、ご承知の通りだ。
詐欺に懲りず何度もカネを家族に無心する“ニーニー”比嘉賢秀(ひがけんしゅう、竜星涼)や自分の思い込みだけで行動しまくる無鉄砲な比嘉暢子(ひがのぶこ、黒島結菜)の性格批判に始まり、彼女のコック帽の下のざんばら髪や1958年の新聞記事に載った「厚生労働省」などディテールの不備(当時は「厚生省」)、さらに次から次に大騒ぎを仕掛けては尻ぬぐいをしないシナリオの無責任に厳しい言葉が飛んだ。
『ちむどんどん』へのツッコミの主役になったのは、Twitterの「#ちむどんどん反省会」。毎日大量の批判的コメントが寄せられ、大盛況となった。批判は大きく類別すると、①登場人物の性格上の難点、②無理のある展開とずさんな脚本、③レストラン「アッラ・フォンターナ」の細部、④食べ物を粗末にする描写、⑤不徹底な時代考証といったところか。
いちいち挙げるときりがないが、私もさすがに呆れたのは、賢秀の度重なる無心に応えた母・比嘉優子(仲間由紀恵)の金銭的負担がほとんど触れられることなく、最終回にナレーションの一言で帳消しにされたところである。曰く、“賢秀は養豚の仕事で成功し、見事に借りたおカネを倍にして返しましたとさ”(めでたし、めでたし……)。まるで「日本昔話」。カネというこの世で一番リアルな問題をこんなおざなりな仕方でこなしていいのか……。
視聴率は低水準に留まった。全125話の期間平均は15.8%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。放送開始時間が午前8時に変更になった『ゲゲゲの女房』(2010年前期)以降、最低となった。ただ、ツッコミの楽しさを覚えた視聴者からは、番組の終了を惜しむ声もあったようで、「あま(ちゃん)ロス」ならぬ「反省会ロス」という冗談のような話も聞こえてきた。
この現象に、朝ドラの新しいカタチを見る
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