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「ちむどんどん」の「女子は天然がよし」という女性観の先に沖縄の海と空

矢部万紀子 コラムニスト

 10月6日、久々に朝ドラで泣いた。「舞いあがれ!」の4話。体が弱い小学3年のヒロイン舞(浅田芭路、幼少期)は、転地療養で母(永作博美)の故郷の五島列島へ。転校早々、磯での校外学習がある。楽しみにする舞。だが、母は無理をさせたくない。それを察して、「やめといた方が、ええかな?」と舞が言う。そこに祖母(高畑淳子)が割って入る。「舞、まだ一回も舞の気持ちば、聞いたことがなか」。母がかわって答えようとするのを止め、「舞は、どがんしたかとね」と聞く。舞は、顔をあげて答える。「行きたい」。

 泣けた。こんなことで、と言うなかれ。人生、他人の気持ちより自分の気持ちだ。だけどいろんな事情から、案外女子には簡単じゃない。気持ちの表明にも勇気がいったりする。そこを促してくれる大人がいた。理屈でなく、彼女の人生が自然とそうさせた。と思えて、泣けた。「舞いあがれ!」、女子の機微がわかってる。ありがとう、これからもよろしく。

期のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」の主人公を演じる福原遥さん2022年下半期の朝ドラ「舞いあがれ!」の主人公を演じる福原遥さん

 と、言いたくなったのは、もちろん「ちむどんどん」の後だったから。結局、女子をめぐる機微というものは、わかる人とわからない人しかこの世にはいなくて、「ちむどんどん」の制作陣はそろいもそろって「わからない人」だったのではないだろうか。機微なくして、涙なし。

「暢子=天真爛漫」の隠れ蓑の下に……

 ヒロイン・暢子(黒島結菜)が共感を呼ばない。ツイッターの「#ちむどんどん反省会」でも、それらをまとめたネット記事でも、繰り返し指摘されていた。例えば前半ですごく評判の悪かった夫・和彦(宮沢氷魚)の「略奪愛」。視聴者を苛立たせたのは倫理的な問題ではなく、暢子の無神経さだったと思う。和彦くんが好きだと彼のフィアンセに告げ、諦めると言っておきながら諦めない。ことほどさように思ったことはすぐ口にし、その後の葛藤もない。つまり、機微がわかっていない。

 なぜかと考えるに、制作陣の女性観だろう。「天然ぼけの女子って可愛いよね」、それが本音だったと思う。それゆえ、暢子は視聴者(女性が多いだろうし、私の観察では朝ドラ好きの男性は女性フレンドリーだ)に届かなかった。ちなみに新明解国語辞典によれば、「天然ぼけ」は「知らず知らずのうちに、とぼけたことを言ったり滑稽なしぐさをしたりすること(人)の意の俗語的表現」。暢子の場合、「知らず知らず」にもほどがある、そういう人だった。

黒島結菜さん=倉田貴志撮影2016年ヒロイン暢子を演じた黒島結菜さん=2016年、撮影・倉田貴志

 知らず知らず極まれり、のシーンが最終盤にあった。東京に開いた沖縄料理店を成功させ、家族3人でやんばるに里帰りし、故郷でのレストラン開業を「突然、口にする」までの暢子が描かれた。

 ご近所、親類、関係者を集めて宴会を開く。そこに遅れて幼馴染の智(前田公輝)が来る。豆腐屋由来の食品業者でかつて暢子にフラれたが、今は妹の歌子(上白石萌歌)が好き。歌子も智が好き。だけど、お互い最後の一歩が踏み出せない。という事情込みで、全員、智が告白に来たとわかっている。

 そこに暢子。智に詰め寄って、こう言う。「ゆし豆腐!」。宴会に合わせて頼んだのに、持ってきてくれなかったと責める。「言ったさあ、約束したさあ」。忘れていたという智に「まさかやー」「うちは、どうしても食べたかったんだのに」「みんなにも食べてほしかったわけ」。1人、しゃべり続ける。

 小さい時から「自分についても、他人についても、恋愛には疎い」。それが暢子と描かれてきた。これを制作陣目線で言うなら、「暢子=天真爛漫」なのだろう。だけど、このとき暢子は30歳なのだ。それなのに、まるで子どものように地団駄を踏む。「天真爛漫」という隠れ蓑の下には、「女子はバカでよし」がある。

 と、子どものように制作陣を責め立てた私だが、彼らの名誉(?)のために書くなら、ダメばかりでもない。納得できる女性の描き方もあった。例えば、パリに転勤した和彦のフィアンセがそうだった。そして「ゆし豆腐!」の前にも、1カ所だけ「これ、わかる」と思えたシーンがあった。

 暢子の姉・良子(川口春奈)だった。努力して小学校教師になり同僚と結婚、働き続けている。そんな良子が和彦に「智に歌子のことをどう思っているか聞いてほしい」と頼む。ためらう和彦に、こう言う。「(自分の夫の)博夫さんは融通が利かない。お母ちゃんは、考えていることがすぐ顔に出てしまう。暢子はなんにもわかっていない。うちの言い方は、なんでも怒ってるみたいに聞こえて怖いってよく言われる……」。

 「怖いってよく言われる」は、働く女子あるあるの一つだ。何を隠そう、会社員時代の私も「嫌われるか怖がられるか、どっちか」と自覚していた。良子は、自分を客観視できる人なのだ。その描かれ方がすべてよかったとは言わないが、夫を含め、他者を冷静に見る人でもあった。女性をフラットに、つまり当たり前に描いていた。

 これができるのに、なんで暢子はものを考えない女性になってしまったのかと考える。

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