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高橋源一郎『ぼくらの戦争なんだぜ』──戦争を伝える「ことば」から

ロシアのウクライナ侵攻下、「戦争」を主体的にとらえ直す

野上 暁 評論家・児童文学者

 連日報じられるウクライナの戦争を目の当たりにして、引き付けられるようにこの本『ぼくらの戦争なんだぜ』(高橋源一郎著、朝日新書)を手にした。敗戦から77年。戦場体験者はもちろん、戦時下を記憶する人も極めて少なくなってきた中で、戦争を知らない戦後世代の政治家たちによって、戦争をしない国から戦争ができる国へと舵が切られ、軍事予算も急増して軍事大国に向かいつつある昨今だからなおさらだ。

 2013年12月、当時の安倍政権下で特定秘密保護法が強行採決され、翌14年7月1日には、歴代政権が維持してきた憲法解釈を変更し、閣議決定で集団的自衛権の行使を容認する。15年7月には、それに連動して安全保障関連法案も与党のみにより強行採決され、他国の戦争に参戦できるように法的整備もされた。さらに17年6月、戦前の治安維持法のように治安弾圧に使われるのではと危惧される「共謀罪」(組織的犯罪処罰法改正案)も強行採決される。

 菅政権下でも、戦前の戦争協力への反省から軍事研究に消極的な日本学術会議会員に、政府の意向に批判的とされるメンバーの選任を拒否するなど、戦前回帰の様相が危惧され、「新たな戦前」が始まったともいわれている。

作家・高橋源一郎拡大作家・高橋源一郎

『ぼくらの戦争なんだぜ』(高橋源一郎著、朝日新書)拡大高橋源一郎『ぼくらの戦争なんだぜ』(朝日新書)
 『ぼくらの戦争なんだぜ』という書名は、朝日新聞連載の「論壇時評」をもとにした『ぼくらの民主主義なんだぜ』(朝日新書)を想起させる。また、2019年まで14年間、明治学院大学で教壇に立ち、多くの若者たちと接してきた著者が、彼らにとっては昔話のような戦争を身近に感じるための呼びかけであり、そのための思索ともいえる。

 とはいえ、戦争を主体的にとらえ、身近に感じるというのは想像以上に難しい。そこで著者は、戦争を伝える「ことば」からアプローチする。

 まず、鶴見俊輔の文章を手掛かりに、教科書の中にある「戦争のことば」を検証する。戦前の日本では「修身」の冒頭から忠君愛国と皇国民教育が徹底され、戦時下となると他の教科でも戦意高揚の話ばかり。ドイツやフランスの高校用歴史教科書や、韓国や中国の歴史教科書も読んでみて、これらに比べると日本の高校の歴史教科書は、受験勉強に役立つような知識を淡々と記述しているようでしかないとその違いを問う。

国民学校初等科修身巻2の第8課「日本は海の国」挿絵拡大1942年、国民学校初等科修身巻2の第8課「日本は海の国」挿絵

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筆者

野上 暁

野上 暁(のがみ・あきら) 評論家・児童文学者

1943年生まれ。本名、上野明雄。小学館で子ども雑誌、児童図書、文芸書、学術書などの編集部門を担当。著書に『おもちゃと遊び』(現代書館)、『「子ども」というリアル』『日本児童文学の現代へ』(ぱろる舎)、『子ども学 その源流へ』(大月書店)、『越境する児童文学』(長崎書店)など。編著に『わたしが子どものころ戦争があった──児童文学者が語る現代史』(理論社)、『子どもの本ハンドブック』(三省堂)、『いま子どもに読ませたい本』(七つ森書館)など。日本児童文学学会会員。日本ペンクラブ常務理事

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです