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『月刊住職』から見えてくる僧侶のリアル──悩み多き住職という職業

お寺のトラブル、地獄の説き方から旧統一教会問題まで

薄井秀夫 (株)寺院デザイン代表取締役

現代人に地獄を説く

 読者の皆さんは、『月刊住職』(興山舎)という雑誌を知っているだろうか?

『月刊住職』(興山舎)拡大『月刊住職』(興山舎)2022年10月号
 文字通り、お寺の住職が読む月刊誌である。SNSやネットニュースなどで時々話題になるので、知っている人もいるかもしれない。

 雑誌名もなかなかインパクトがあるが、掲載されている記事のタイトルはさらに強いインパクトがある。一般の人にとってはカルチャーショックを感じるようなものばかりで、このタイトルを見て、SNSなどで「攻めてる」と話題になっているのだ。

 バックナンバーから、いくつか目を惹くタイトルをピックアップする。

 「ポケモンGOの襲来に各寺院はどう対処すべきか、問題はあるか」(2016年9月号)
 「この夏の読経に使える住職のためのマスク選び」(2020年8月号)
 「ゆうちょも大銀行も硬貨の預け入れ有料化にお寺も大憤慨!」(2022年3月号)
 「お寺でも始まっている参詣ポイント制って何なのか」(2022年8月号)
 「現代人に『地獄』を説法するのに必要なのは何か」(2022年9月号)

 記事内容はある程度想像できるものもあるが、「そんなことがあるのか?」「お坊さんはそんなこと考えているのか?」という内容ばかりであろう。

 中でも本年9月号の「現代人に『地獄』を説法するのに必要なのは何か」という見出しは、特に強烈なインパクトがある。どうにも不穏な気配すら感じるのも事実だ。

 日本仏教では伝統的に、説法で地獄について語ることが多かったが、現代では地獄を語る僧侶は少なくなっている。その中で、あえて地獄を説くことについて考える記事である。

 地獄という思想の歴史、地獄に関する様々な逸話、地獄に関する絵本や紙芝居、地獄を語ることへの僧侶自身の様々な意見、地獄を説くことのメリットとデメリット、そして説くためのノウハウなど、多面的に地獄について書かれている。

 記事を通して一貫しているのが、僧侶自身が、どうやって地獄の思想と向きあうかということである。説法で地獄の話題に触れるべきかどうか、触れるとすれば、どのように語ればいいのかを考えるための材料となっている。

 おどろおどろしい内容が書いてあるようにも見えるが、内容はいたってまじめである。しかも記事には、地獄の話題が脅しにならないようにする配慮の必要性も説いている。

 決していかがわしい内容の記事ではない。人がよりよく生きていくために、地獄という考え方を、どう活かすかを大まじめに考える記事なのだ。


筆者

薄井秀夫

薄井秀夫(うすい・ひでお) (株)寺院デザイン代表取締役

1966年生まれ。東北大学文学部卒業(宗教学専攻)。中外日報社、鎌倉新書を経て、2007年、寺の運営コンサルティング会社「寺院デザイン」を設立。著書に『葬祭業界で働く』(共著、ぺりかん社)、 『10年後のお寺をデザインする――寺院仏教のススメ』(鎌倉新書)、『人の集まるお寺のつくり方――檀家の帰属意識をどう高めるか、新しい人々をどう惹きつけるか』(鎌倉新書)など。noteにてマガジン「葬式仏教の研究」を連載中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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