宅配の青年の〝おせっかい〟に、倒れた母を助けられて
「コミュニティナース」、地域ケアの取り組みを考えた
天野千尋 映画監督
一人暮らしの母が倒れた
6月のある夕方、愛知に住む姉から、「母がどうも倒れているようだ」という電話が入った。
母は現在74歳、愛知で一人暮らし。姉は母の家から徒歩圏内の近所に住んでいる。その日の午後、母が利用する食材宅配サービスの配達員から、姉に「どうも家の様子がおかしい」と連絡があったらしい。
姉が母の家に駆けつけると、新聞がポストに4日分溜まっていて、インターホンを押しても反応がない。何か異常事態なのは明らかだが、母は普段から防犯のため全てのドアや窓にキッチリ鍵をかけているため、家の中の様子が全く確認できない状況、とのことだった。
姉夫婦が警察や鍵開け業者に連絡を取り、緊迫した状況で奮闘すること数時間。夜、キッチンの床に倒れている母が発見された。
微かに意識はあったが、おそらく4日間以上そこに倒れていたのだろう、重い脱水症状で朦朧としていた。すぐにICUに搬送され、どうにか一命を取り留めた。倒れた原因は不明だが、転んでしまった衝撃で気を失ったのかもしれない。もしもあと数時間遅ければ、本当にどうなっていたか分からない。
母の命を救ったのは、食材宅配サービスの配達員のちょっとした心配りだった。

Anna Zheludkova/shutterstock.com_
彼は毎週毎週、母が注文した1週間分の野菜や肉や調味料を届けてくれていたので、母とは顔見知り。普段なら必ずインターホンで顔を出す母が、その日だけ反応がなかったので、違和感を覚え、連絡をくれたのだという。
配達員さんのファインプレーに頭が下がる思いで感謝すると同時に、じわじわと苦い後悔に襲われた。
東京で離れて暮らす私は母と、1、2週間に1回電話する程度。デジタルに不慣れな母はLINEもビデオ通話も難しい。コロナ禍になってからは盆や正月の帰省も中止したりと、以前よりもコミュニケーションが少なくなっていたように思う。もし1本電話を入れていれば異変に気付けたかもしれない、という自責の念がずるずると尾を引く。