災害に関わる言葉は、聞いてすぐ分かるものにすべきでは
2022年10月28日
9月の台風第14号は甚大な被害をもたらした。その後、幸いなことにしばらく大きな台風は接近・上陸していなかったが、10月26日(水)に発生した熱帯低気圧が台風22号となって、再び日本に接近する見こみだという。
秋台風は夏台風に比べて「雨量がかなり多くなること」があり、また「上陸時の勢力が強い」傾向が見られるというが(「気象病に関する気象用語」頭痛ーる)、雨量や気圧について気象庁やメディアの伝える情報には、疑問に思う点がある。
私が一番気になるのは、メディアが視聴者に換算を強いる点である。
降雨量はふつう、例えば「320ミリ」などとミリ単位で表現される。私が知るかぎり例外はない。けれど「320ミリ」では、ぴんと来ない。私たちは、1センチ以下の長さに関してでなければ、ふつうミリは使わないからだ。だから「320ミリ」よりも、日常的に使う「32センチ」の方がはるかに分かりやすいし、その方が豪雨のこわさが直接に伝わる。
なのにメディアは、なぜ視聴者に換算を求めるのだろう? 気象庁の発表という以外、そうする合理的な理由があるとは思われない。ないのなら、「320ミリ」と回りくどい言い方はせずに、始めから「32センチ」と報道すればよいのではないか。
いや、視聴者がいつも換算するという前提は誤りで、実際はしない人が多いだろう。特に地域ごとに雨量がいくつも示されたりすると、人は煩雑に感じて、換算などせずに漫然と聞き流すのがオチだろう。
それに、私が知るかぎり、「320ミリ」と報じられることはあっても、例えば「321ミリ」「328ミリ」のように、有効数字を1桁とする例は多くないようである。それならますます、始めから「32センチ」と報道する方がずっと良いのではないか。
地震などの場合にも、被害発生後「53時間がたった」などといった報道がめだつ。これは、もっとぴんと来ない。こうした報道は「72時間の壁」の影響と思われるが、この場合は、数字を24で割らなければならないために、さらに分かりにくい。
災害発生後53時間がたったと聞けば、私たちは頭の中で「53÷24」と計算して、まず2(日)以上たったと解する。次に「53-48(24×2)」を計算すると、答えは5(時間)である。だから事故は、発生後「2日と5時間」たったと。
こうして初めて人は、ああそうかと合点するのである。12時間ないし24時間が、日常的な時間の単位だからである。ならば最初から、「2日と5時間」と言ってくれればどんなによいか。
本年、高知市で起きた倉庫火災では、1日半後の様子について、「36時間が経過した20日夕方になっても建物内が燃え続けた」とある(同2022年6月21日付)。これも、事態が長引く様子を示したいのであろうが、やはり不親切であろう。
換算の問題とは異なるが、台風報道でしばしば伝えられる気圧情報も分かりにくい。例えば「台風の中心気圧910ヘクトパスカル(hPa)」といった報道がそれである。だが910hPaとは、何を意味するのか?
だが、「気圧910hPa」とこの情報との関連は見えてこない。910hPaという数値の、台風の気圧として異常に低いという意味は、一般にほとんど知られていないからである。
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