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劇団四季『ノートルダムの鐘』カジモド役のひとり飯田達郎取材会レポート

お客さまの心が浄化される、その一端を担えるのが幸せ

小野寺亜紀 演劇ライター、インタビュアー

 劇団四季のミュージカル『ノートルダムの鐘』が、京都で約3年ぶり、3度目の上演を果たす(12月18日~2023年4月9日 京都劇場)。ヴィクトル・ユゴーの代表作「ノートルダム・ド・パリ」を原作に、ディズニー・シアトリカル・プロダクションズが製作。1996年のディズニー長編アニメーションをベースにした、アラン・メンケン作曲、スティーヴン・シュワルツ作詞の素晴らしい音楽や、宿命を背負った登場人物たちの生き様を通して、「怪物か人間か」と問いかける重厚なドラマは、観終わったあとに強烈な余韻を残す。

『ノートルダムの鐘』ⒸDisney=上原タカシ 撮影拡大『ノートルダムの鐘』ⒸDisney=上原タカシ 撮影

 舞台は15世紀末のパリ。ノートルダム大聖堂の鐘楼に住む、生まれながらに障害をもった優しく孤独な青年・カジモド役を、2016年の東京初演より演じている飯田達郎が、京都公演に向けての取材会に出席。これまで300回演じてきたカジモドは、「俳優人生を大きく変えてくれた」と、作品への溢れる想いを語った。

カジモド役は自然に呼吸している感覚

――カジモド役を2016年から演じられるなかで、ご自身に変化などありましたか?

 初演から300回カジモド役を演じているのですが、100回演じたころから自分の呼吸とフィットしていく感じがありました。僕はこれまでいろいろな作品に出演していますが、カジモドが一番自分に近いというか、自然に呼吸している感覚になります。キャラクターを演じるというより、彼と重なっている、という表現が正しいのかもしれないです。

――そこまで役との重なりを感じるのは、どういうところからですか。

 設定としては全然重ならないんですよ。カジモドは20年間鐘楼に閉じ込められ、石像と会話しているけれど、僕はわりと人と仲良くするタイプなので(笑)。ただカジモドはすごく孤独で、そういう経験は僕自身もあり、いろいろな人生の悲しみが僕の中にあったことに気づかされた、ということですね。

 例えば今、『オペラ座の怪人』でラウルを演じているのですが(取材会は10月上旬)、彼は子爵なので、馬の乗り方や剣術などから勉強しました。カジモドはそうやって外から情報を入れるのではなく、台本を読んだらスッと彼の台詞や行動が理解でき、違和感なく演じられました。もしかしたらカジモドは、誰しも演じやすいのかもしれないと思います。みんなカジモド的な要素、コンプレックスの部分は必ずあると思うので。カジモドはマイナス要素の塊なんですよ。体や顔は曲がった状態で演じています。そんなカジモドがお客さまと一緒に旅をし、観ているお客さまの心が浄化されていく。その一端を担えるのはすごく幸せだなと、いつも思いながら演じています。

飯田達郎=岸隆子 撮影拡大飯田達郎=岸隆子 撮影

――カジモド役は、飯田さんにとって大きな存在なのですね。

 劇団に入団した時からお世話になり、カジモドの父親代わりのフロロー役を初演から演じている芝清道さんが、「お前はこの役を演るために四季に入ってきたんだと思う」と言ってくださったのですが、僕自身もそう思います。入団して初めて大型のオーディションに参加したのがこの作品で、いちから役を作っていく難しさや楽しさを知り、僕の俳優人生を大きく変えてくれました。演じるうえで身体的な大変さはありますが、心の疲れは一切なく舞台上に立っています。本当にやりがいがありますし、まだまだ演っていきたいです。

ノートルダム大聖堂が燃えた時、呆然とした

飯田達郎=岸隆子 撮影拡大飯田達郎=岸隆子 撮影

――以前にも『ノートルダムの鐘』京都公演に出演されていましたが、京都の印象は?

 僕は京都の隣の福井県出身なので、とても馴染みのある街です。もともと歴史や神社仏閣に興味があるので、休演日は京都の街をレンタサイクルで走り、お寺や大好きな坂本龍馬縁の場所を訪れた思い出があります。この作品はノートルダム大聖堂が舞台で、宗教は違えどお寺などがたくさんある京都で上演するのは、重厚な感覚が舞台上にも漂うなと、個人的に思っています。

――新たに京都で上演する意気込みをお聞かせください。

 これから京都公演に向けてのお稽古がスタートします。演出のスコット・シュワルツは上演時の時事や国民性に合わせた演出を考える方で、2016年の初演時も日本独自の演出をたくさんつけてくださいました。今回のお稽古でも様々な変化が起こるのではと思っています。僕自身は、前回の京都公演以後いろんな作品に出演させていただき、そういった蓄積が、役にどう影響するのか楽しみです。

飯田達郎=岸隆子 撮影拡大飯田達郎=岸隆子 撮影

――初演から現在までには、2019年のノートルダム大聖堂の火災、2020年からのコロナ禍や戦争などいろいろな出来事がありました。もともとヴィクトル・ユゴーの深みのある物語ですが、どのような心境でこの作品に向かっていかれたのでしょうか。

 ノートルダム大聖堂が燃えた時、僕はテレビを見ていなくて、友人からすごい勢いで連絡がありました。ただ、そのニュース映像は映画か何かのようで実感がわかず、呆然としました。僕自身、多くの資料などを読み込み、(ノートルダム大聖堂を)知っている感覚になっていたのでとても悲しかったです。でも海外のスタッフから、「今、世界中でノートルダム大聖堂に入れるのはこの劇場だけだよ」「あなたたちはノートルダム大聖堂の美しさを、お客様に伝えていく使命がある」というようなお言葉を頂き、カンパニー全員奮い立ちました。あの日の本番は舞台上に何か違うものが宿った感覚があり、みんな泣いてましたね。

 また、コロナ禍になって人々の心に弊害が生まれ、人と触れ合うのもだめ、みたいに一時期なりましたよね。そして問題の内容は違えど、大昔から争いは続いていて……。そういうニュースや出来事ですさんだ心に、何か希望を灯せたらと思います。この作品の大きなテーマは「他者を受け入れること」。これは15世紀末のお話ですが、普遍的なテーマがあり、どの時代にもどの年代の方にも響くものだと思います。

100回観て100回泣いた、俳優からも愛される作品

飯田達郎=岸隆子 撮影拡大飯田達郎=岸隆子 撮影

――カジモドは大聖堂を抜け出した先の祭りで、ジプシーの踊り子・エスメラルダと出会い心惹かれます。カジモドにとってエスメラルダはどのような存在ですか?

 僕がいつもエスメラルダに感じるのは、温かさ、ぬくもりです。男女のドキドキとはまた違う母性や憧れを、カジモドはエスメラルダに抱くのだと思います。彼は敬虔なカトリック教徒なので、聖母マリアさまにものすごい憧れがあり、そういうマリアさまと重なるものを感じながら演じています。

――他の俳優の方が演じられるカジモドを見て、意識されたりはしないのでしょうか。

 他のカジモド役を演じる俳優たちに、アドバイスを送ることはあります。ただ、彼らは彼らなりに自分たちで台本を読み解き、彼らのカジモドを精一杯演じているので、どちらが上とか下とかは全くありません。技術的なこと、例えば「歌はもっとこうしたほうがいいのでは」とか指導することはありますが、お互いのカジモドをリスペクトしています。僕は全員のカジモドを観ましたが、それぞれとても魅力的です。劇団四季で忘れてはいけないのが、台本を忠実にお客さまに伝えること。読み解き方やアプローチは違えど終着点は同じで、どれも正解だと思っています。

飯田達郎=岸隆子 撮影拡大飯田達郎=岸隆子 撮影

――飯田さんのカジモドはどのようなアプローチを?

 僕のカジモドは幼いらしくて、観てくださった方からもよくそう言われます。稽古の最初に演出家から、「5歳児のように無邪気に演じてほしい」と言われたのが印象的だったので、ショッピングセンターで泣いている子どもの仕草などをすごく見て、小さい子がとっさにとるモーションを体に落とし込む研究をしました。

――音楽についてはいかがですか。

 アラン・メンケンは『アラジン』『リトルマーメイド』など華やかな作品の曲を多く作っていますが、『ノートルダムの鐘』では、現地のパリに行き宗教音楽も取り入れて作られたそうです。特に「クワイヤ」という聖歌隊を舞台上に配置する、特殊な作りになっていて。クワイヤはラテン語でも歌うのですが、おもしろいことに、前方で演じているキャラクターとは全く逆の歌詞を歌ってたりするんです。「私は全く罪がない」と歌っていると、クワイヤは「いや、私の大罪なのだ」というふうに、キャラクターの本心が同時に表される。それが美しいハーモニーとなっているので、クワイヤとの絡みもぜひ聴いていただきたいです。

飯田達郎=岸隆子 撮影拡大飯田達郎=岸隆子 撮影

――最後に京都公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

 この作品は劇団四季にとっても大切なレパートリーのひとつですし、俳優たちにも愛されている作品です。『ノートルダムの鐘』に出てみたいと言う声を聞くこともあります。きっとこれまでたくさんの舞台をご覧になった方も好きになると思います。僕も100回ぐらい観ましたが、100回泣いています(笑)。

 それだけ愛されるのは、やはりこの作品の持つドラマ性ではないでしょうか。エンディングに何とも言えない涙が流れるんですよ。この作品は舞台上で会衆が役を演じるという作りになっていて、(人物の)魂を借りてみんなと一緒に旅をする感覚なのですが、そういう作品は他にはなく、演出のすごさにも圧倒されます。僕は特に、学生の方に観ていただきたい。この作品は差別や偏見なども描かれていますので、舞台を観て自分の心がどう動いたか、感じていただけたらと思います。もちろん、テーマはどの世代の方にも受け入れていただけると思うので、舞台が初めてという方をはじめ多くの方にご覧いただきたいです。

◆公演情報◆
ミュージカル『ノートルダムの鐘』
2022年12月18日(日)~2023年4月9日(日) 京都劇場(JR京都駅ビル内)
※チケット発売中
公式ホームページ
問い合わせ:劇団四季 ナビダイヤル 0570-008-110
[スタッフ]
作曲:アラン・メンケン
作詞:スティーヴン・シュワルツ
台本:ピーター・パーネル
日本語台本・訳詞:高橋知伽江

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筆者

小野寺亜紀

小野寺亜紀(おのでら・あき) 演劇ライター、インタビュアー

大阪府出身。幼い頃から舞台をはじめ、さまざまなエンターテインメントにエネルギーをもらい、その本質や携わる人々の想いを「伝える」仕事を志す。関西大学文学部卒業後、編集記者を経て独立。長年、新聞や雑誌、Webサイト、公式媒体などで、インタビューや公演レポート等を執筆している。特に宝塚歌劇関係の取材は多い。 小野寺亜紀オフィシャルサイト(https://aki-octogreen.themedia.jp/)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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