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廣瀬友祐×増子敦貴(GENIC)が語る『東京ラブストーリー』

原作にとらわれず、舞台版の三上を2人で作っていきたい

米満ゆうこ フリーライター


 人気漫画家の柴門ふみが1988年に発表し、1991年にテレビドラマ化されるやいなや社会現象となった『東京ラブストーリー』。漫画を原作に初めてミュージカル化される。11月27日から東京建物 Brillia HALLで上演され、クリスマスの時期に大阪にやって来る(愛知、広島公演あり)。

 原作は昭和~平成のバブル期が舞台だが、本作では設定を2018年春から2019年の春に置き換える。物語は、今治に本社のある「しまなみタオル」に勤める永尾完治(柿澤勇人/濱田龍臣)が、転勤先の東京支社で自由奔放な同僚の赤名リカ(笹本玲奈/唯月ふうか)と出会う。完治は今は東京に住む地元の高校の同級生、三上健一(廣瀬友祐/増子敦貴(GENIC))と飲む約束をするが、そこには完治が高校時代から片思いをしていた関口さとみ(夢咲ねね/熊谷彩春)もいた。そして、何とそこにリカも現れ、4人のラブストーリーが始まっていく。本作では、空キャストと海キャストの2チーム制によるダブルキャストで上演。三上役を空キャストで演じる廣瀬と、海キャストで演じる増子が合同取材に応えてくれた。

女性は嫌だといいながらも、寄り添ってしまう

廣瀬友祐(左)と増子敦貴拡大廣瀬友祐(左)と増子敦貴

――作品に出演することが決まってどんな思いでしたか。

増子 最初はうれしいと思ったんですけど、段々、「と、と、東京ラブストーリー!?」みたいな感じになって、一気にプレッシャーがズシンと来ましたね。「あの三上をやるの?」という親戚の反応がすごかったです。幅広い世代が知っている作品なんだなと思いました。

廣瀬 僕もやっぱり驚きですよね。『東京ラブストーリー』をついにミュージカルでやるんだ、どうやるんだろう?という驚きと、キャストの名前を聞いた時、ぜひ共演したいという個人的な思いもありました。今、様々な原作ものミュージカルが上演されていますが、ホリプロさんで新しい日本のオリジナルミュージカルを作ろうという熱意や意気込みに共鳴、共感できる部分があって、そこもうれしかったですね。

――個人的な思いがあるキャストとは?

廣瀬 完治役の柿澤勇人さんです。カッキーとは、『メリリー・ウィー・ロール・アロング』で共演して以来なんですけど、当時から彼は主役で、色んな作品に出ていて、経験値もその時点で違っていたんです。僕より二つ年下の同世代で、ずっと好きな俳優でした。今回、カッキーからどういうものを受け取って、刺激を受けて、さらに自分が成長できるのではないかと期待もあるんです。カッキーの名前を見た時はうれしかったですね。

――増子さんは以前に、「三上はただの遊び人ではなく、たくさんの女性にモテる魅力的な男だ」とコメントされていますね。

増子 ただの遊び人というよりも、イメージは大学3、4回生になり余裕が出てきて、“飲みサー”とかに行き、体は埋まっているけれど、心が埋まっていないというか、寂しさを埋めるために女の子を捕まえに行っている人。女の子たちは、医者で、あんなに格好よくて余裕があってと、三上の罠にまんまと引っかかってしまう。そんなミステリアスかつ魅力的な人物にしたいなと思っています。

廣瀬 皆さんがイメージする三上と、僕らがイメージする三上は基本的には一緒だと思うのですが、舞台版の台本は、漫画やドラマで描かれている細かい描写がないんです。色んなものがそぎ落とされて、凝縮されたセリフや展開になっていて、それを元に作っていかなければならない。まだ僕の中ではっきりとはしていないのですが、三上は女性にモテたり、手が早かったりして、ミステリアスでクールでセクシー。

 ミュージカルでは冒頭のシーンで『56人の女たち』という三上の自己紹介ソングがありますが、その曲がわりとポップで、イメージした三上の曲ではないというか、遊び人のチャラい曲なんだけど、よりカジュアルなんです。今のところ、最初に抱いていた大人でクールな色気漂う三上より、ちょっとワントーン明るくなってカジュアルな要素も入れなきゃいけないなと思っています。

増子 僕も同じですね。台本を頂く前に思っていた三上像と、台本を読んで感じた三上像とが違っていて戸惑いもありますし、いまだにどうしたらいいんだろう?という悩みと闘っている段階です。そこからどう自分の三上を作っていこうか、頑張らなきゃなと。愛した女性が56人もいるの………(笑)と考えると、完治のキャラクター性と、濱田君演じる完治とのバランスも大切に作っていきたいなと思います。

――お2人とも、漫画やドラマはご覧になりましたか?

廣瀬 僕は全部は見ていないです。漫画とドラマを少し拝見しました。

増子 僕もそうですね。原作漫画が稽古場にあり、それまで読んだことがなかったのですが、ああ、こういう感じなんだと。結構、思っていたよりすごいことしてる、三上!と思いましたね(笑)。

――お2人とも漫画やドラマと、今回のミュージカルの三上像は違う。これからそれぞれが作っていくという感じなのですね。

廣瀬 そうですね、やはり舞台版の三上を2人でつくるべきだと思っています。原作やドラマにとらわれず。細かい設定も違いますし。

増子 僕も同じ気持ちですね。

――女性から見ると、三上は大変そうですし、私は遠慮したいタイプなんですけど(笑)、お2人から見てどうですか?

増子 やっぱりモテると思います。女性は一途な人がいいというけど、結局、好きになってしまうのは三上みたいなタイプじゃないかなと。女心が分かっているし、魅力があるから皆、好きになってしまう。そういう魅力を舞台でどう出せばいいのか、僕はまだ分かっていないし、すごく難しいですね。

廣瀬 同じ男からすると、個人的にはうらやましいです。誤解を恐れずに言うと、ああなれるなら、なりたい(笑)。男として生きている以上は憧れますね。僕はそうできないというか、できずにここまで生きてる分、やっぱり憧れる。今、あっちゃん(増子)が言ったように、女心を分かっていて、欲しい時に欲しい言葉をくれて、アクションを起こせるのは三上の魅力。女性は、口では三上のようなタイプは嫌だと言いながらも……。

増子 結局のところ好きなの⁉と。

廣瀬 そうそう、結局寄り添ってしまう。そんな魅力と力を三上は持っているんだろうなと思います。

リカみたいなタイプは周りにはいない⁉

廣瀬友祐拡大廣瀬友祐

――91年のドラマが大ヒットした当時、リカは物事をはっきりと言い、自分の欲望に正直で、行動力も桁外れ。これからの現代女性だみたいに言われていたんです。お2人から見て、リカとさとみという2人の全然違う女性についてどう思いますか。

増子 周りにリカみたいなタイプはいませんよね? リカは難しいかな……。週1でいいですね(笑)。

廣瀬 週1は会えるんだ?

増子 頑張って週1。

――さとみのほうがいいですか?

増子 彼女のほうが、不安にさせないタイプですよね。

廣瀬 そうだね。リカみたいなタイプはいるとは思うんですよ。でも、そうだなぁ……さとみのほうが安心感だったり、癒しだったり母性的なものをすごく持っているタイプで惹かれがちなんだけど、僕は最近はリカ派かもしれないです。もし、リカと心の底から通じ合えて、お互いサポートしあえる仲になったら、さとみより強い。さとみは優しいけど、どこか完治と三上に揺れる部分があるし、優しいがゆえにはっきりと物を言えなかったり、弱い部分を持っている。最終的にペアになれるんだったら、リカのタイプのほうが心強いかなと。

――三上のキャラクターとして二人はどうでしょう?

廣瀬 三上とリカはないよね?

増子 そうですね。

廣瀬 さとみは待ってくれる人。尚子という女性も出てきますが、さとみと尚子は似たものを持っているから三上は2人に惹かれているところがある。お互い自由奔放な三上とリカはどうやったって難しい。タイミングが合って、一時的に盛り上がる瞬間はあるかもしれない。お互いに異性に手が早いタイプですから(笑)。でも、長くは持たないんじゃないかと。

増子 僕もそうですね。リカとは想像できない。めちゃくちゃいい友達にはなれると思います。

――今回、キャストが2チームに分かれて出演しますが、演出のつけ方など、それぞれの色が少し違うということなのでしょうか。

廣瀬 そうなると思います。基本的にはそれぞれのチームで稽古をして、微妙なセリフの言い方の違いはあると思うし、お互い影響を受けると思うんです。僕自身もダブルチームは初めてなので新鮮ですね。海チームをどこか別物として見ている感覚です。

増子 僕もそうですね。最近、空チームと海チームで分かれて稽古する時間も多くなってきて、三上のセリフも、「空チームのみ変更になります」と紙に書いてあって、チームによって違うんだなと改めて感じました。

――作品は東京が舞台で、地方の人から見たら東京の人や街はキラキラと輝いているように見え、そこがポイントでもあるのですが、お2人は?

増子 僕は福島県で育って、東京は年に1度、家族で旅行に行く場所でしかなかった。上京する時は「お父さん、お母さん、出稼ぎに行ってきます」という感じでした(笑)。好きな場所ではなかった分、闘いにきているというか、いつまで経っても緊張がほぐれない場所ではありますね。だから、完治の気持ちはすごく分かります。東京の人って、人だかりの中でも我が道を行くじゃないですか。

廣瀬 スクランブル交差点?

増子 そう。僕は人をよけちゃうタイプなので、よけ続けて前に進めないんです。でも今は慣れてきたせいか、ちょっと強くなって東京になじんできて、我が道を行っています(笑)。

廣瀬 僕は生まれは東京なんですが、山梨で育っているんです。東京は昔から闘う場所ではありましたね。最近はそうでもなくなってきて、日本の首都ですが、どこでもいいじゃんと思っているところもあります。最先端でありながら、すごくグレーというか、色んな文化や思考がごちゃまぜになって、白でも黒でもなくあいまい。無意識に縛られて息苦しくなりそうで、特別な思いはないですね。仕事しなくてよければ東京にはいないです。山梨に戻りたいです。福岡、博多も大好きな街ですね、東京よりかは(笑)。

増子 僕も地元が一番、落ち着きますね。福島は自然も多いし、仕事が東京だとしても通いたいぐらいですね。

流れがちにならないように一つひとつを届けたい

増子敦貴拡大増子敦貴

――そこは共通しているのですね。ほかに、お2人の共通点といえば、ミュージカル『テニスの王子様』に出演されていたことです。その経験は今、どのように生かされていますか。

廣瀬 個人的にはつらかったり、悔しかったりという思いが多くて。それまでこの世界に対するポジティブな気持ちがあんまり芽生えていなかったのですが、その経験をバネにして、同世代や一緒にやっていた共演者に負けたくないという反骨精神みたいなものを植え付けてくれたり、駆り立ててくれたのは「テニミュ」なんです。当時、若かったし、デビュー作で、舞台に関する知識もなく劣等感があった。僕のキャラクターはスキンヘッドだったので、毎朝、頭皮が荒れるのに剃ってツルツルにし、ドーラン塗ってステージに立つのに、あんまりキャーキャー言われないんですよ(笑)。一方で、カッコいい役はおしゃれしてウィッグつけて、舞台に立ったらキャーと言われるんですよ。ふざけんじゃねぇ、と当時思っていて(一同笑)。

 でも、僕にとってはそれが火をつけてくれたので、感謝していますし、舞台に立つ度胸もつきました。数カ月前はただの一般人だった僕が、アリーナ並みの大きな会場にいるお客さんに立ち向かえるわけがない。時が経てば経つほど、感謝に変わっていますね。テニミュがあったから、今の自分が形成されている気がしています。

増子 テニミュって部活動みたいな感じなんですよ。皆で力を合わせて一緒に作っていく素晴らしさを教えてもらいました。チームの皆ともずっと一緒にいるので、たまに喧嘩になったりして。そういう時間さえも今はいい思い出です。

廣瀬 学校みたいな感じだよね。

増子 本当にそう。テニミュは自慢です。長くてキツイなと思っていたことのほうが多いんですが、それが今はいい思い出になっている。僕は当時、キラキラしたウイッグをかぶっていました (笑)。

廣瀬 俺が先行して話したからあっちゃん、めっちゃ話しづらかったよね? (笑)。僕は僕で、「廣瀬は昔はテニミュであんな役やってたんだよ」と言われるような存在になりたいです。

――今回はお2人ともカッコいい役で良かったですね(笑)。『東京ラブストーリー』は、2018年に日本で初演されたオリジナルミュージカル『生きる』の作曲を手掛けたブロードウェイの作曲家、ジェイソン・ハウランド氏が楽曲を担当します。そこにも注目したいですね。

廣瀬 キャッチーで、聴きやすくてなじみがある、歌いやすい楽曲です。聴きやすいからサッと流れがちで、奥行きを出す作業が難しいかなと思っています。流れてしまわないように、瞬間瞬間を残していければと思っています。

増子 耳に残るメロディがたくさんあって、お客様は2、3回聴いたら覚えてしまうんじゃないかと思うぐらいキャッチーなんです。僕自身、大好きな曲が多いですし、(廣瀬)友祐さんが言う通り、流されやすい部分もあるかなと思います。「ミュージカルの曲はセリフなんだよ」と教えてもらったんですけど、今回、改めてそう感じました。お客さんに一つひとつ大事に届けられるように歌っていきたいです。

◆公演情報◆
ミュージカル『東京ラブストーリー』
東京:2022月11月27日(日)~12月18日(日) 東京建物 Brillia HALL
大阪:2022年12月23日(金)~25日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
愛知:2023年1月14日(土) 刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール
広島:2023年1月21日(土)~22日(日) JMSアステールプラザ大ホール
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:柴門ふみ「東京ラブストーリー」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
音楽:ジェイソン・ハウランド
脚本・歌詞:佐藤万里
演出:豊田めぐみ
[出演]
【空キャスト】
永尾完治:柿澤勇人
赤名リカ:笹本玲奈
三上健一:廣瀬友祐
関口さとみ:夢咲ねね
【海キャスト】
永尾完治:濱田龍臣
赤名リカ:唯月ふうか
三上健一:増子敦貴(GENIC)
関口さとみ:熊谷彩春
………………
長崎尚子:綺咲愛里
和賀夏樹:高島礼子 ほか

筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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