勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家
1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「反差別の人たちはスタンスが受動的」という課題について
オリックスが、化粧品・健康食品大手のディーエイチシー(DHC)を約3000億円で買収するというニュースが2022年11月11日に発表され、インターネット上でも大きく注目されました。
買収は事業承継に伴うものですが、単なるM&Aのニュースとして注目されただけではありません。DHCは、創業者で会長兼社長の吉田嘉明氏によるたび重なるヘイトスピーチが問題になり、不買運動も起こった企業だからです。
また、「DHCテレビ」というメディア事業を抱え、「TOKYO MX」で放送されていた時代にBPO(放送倫理・番組向上機構)が放送倫理違反とした「ニュース女子」(2021年終了)や、ヘイト・フェイク・陰謀論等がたびたび問題視されてきた「真相深入り!虎ノ門ニュース」というネット番組も長年放送していました。
虎ノ門ニュースは、安倍元首相が現職のときに出演するなど「保守系界隈」で最も“地位”を築いていた番組だったのですが、11月7日に番組終了が突然発表されました。その4日後に買収が発表されたため、打ち切りの理由は買収だったのかとあらためて注目を浴びることになったのです。
とりわけ、吉田氏やDHCテレビが繰り返してきた差別やデマに反対の立場を取る人々は、オリックスによる買収に好意的な印象を持っているのか、安堵や評価の声が上がっていました。
確かに、一般のユーザーがDHCの商品を購買することで、その売り上げが差別的な価値観を拡散する番組の製作費などに使われることや、それを担うインフルエンサーの懐を満たす原資になってしまう問題が解消された点については、私も評価しています。
実際、DHC商品を扱う企業との取引を避けていた業者の方に話を伺いましたが、「オリックスの対応次第では今後取引を再開することもあり得る」とのことでした。
オリックスは吉田氏の発言やDHCテレビによるこれまでの巨大な負の影響を考慮し、「差別を容認しない」というコメントに留めず、「あのような差別的価値観とは決別する」という積極的なステートメントを出して欲しいものです。