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DHC買収・「虎ノ門ニュース」終了は本当に朗報なのだろうか?

「反差別の人たちはスタンスが受動的」という課題について

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 オリックスが、化粧品・健康食品大手のディーエイチシー(DHC)を約3000億円で買収するというニュースが2022年11月11日に発表され、インターネット上でも大きく注目されました。

 買収は事業承継に伴うものですが、単なるM&Aのニュースとして注目されただけではありません。DHCは、創業者で会長兼社長の吉田嘉明氏によるたび重なるヘイトスピーチが問題になり、不買運動も起こった企業だからです。

DHC)が、在日韓国・朝鮮人に対する差別的な文章を会長名で公式オンラインショップに公開していた問題で、市民団体が24日、取引先のコンビニ各社に対し、同社との取引中止を求める約5万人分の署名を提出した2021年6月、DHCが在日韓国・朝鮮人に対する差別的な文章を会長名で公開していたことに対し、コンビニ各社に取引中止を求める5万人分の署名を提出した市民団体もあった

 また、「DHCテレビ」というメディア事業を抱え、「TOKYO MX」で放送されていた時代にBPO(放送倫理・番組向上機構)が放送倫理違反とした「ニュース女子」(2021年終了)や、ヘイト・フェイク・陰謀論等がたびたび問題視されてきた「真相深入り!虎ノ門ニュース」というネット番組も長年放送していました。

 虎ノ門ニュースは、安倍元首相が現職のときに出演するなど「保守系界隈」で最も“地位”を築いていた番組だったのですが、11月7日に番組終了が突然発表されました。その4日後に買収が発表されたため、打ち切りの理由は買収だったのかとあらためて注目を浴びることになったのです。

商品購入が差別拡散の原資になる構図が解消した

 とりわけ、吉田氏やDHCテレビが繰り返してきた差別やデマに反対の立場を取る人々は、オリックスによる買収に好意的な印象を持っているのか、安堵や評価の声が上がっていました。

 確かに、一般のユーザーがDHCの商品を購買することで、その売り上げが差別的な価値観を拡散する番組の製作費などに使われることや、それを担うインフルエンサーの懐を満たす原資になってしまう問題が解消された点については、私も評価しています。

 実際、DHC商品を扱う企業との取引を避けていた業者の方に話を伺いましたが、「オリックスの対応次第では今後取引を再開することもあり得る」とのことでした。

 オリックスは吉田氏の発言やDHCテレビによるこれまでの巨大な負の影響を考慮し、「差別を容認しない」というコメントに留めず、「あのような差別的価値観とは決別する」という積極的なステートメントを出して欲しいものです。

多額の資金を得る吉田元会長の動きに警戒すべきだ

 一方で、必ずしも差別をめぐる状況が改善したわけではありません。むしろ、吉田氏は今まで以上に自由に動けるようになるだけではなく、株式の売却によって多額の資金を得ることで、「ニュース女子」や「虎ノ門ニュース」と同類の新しいメディアを作る可能性もあり得るからです。

 映像メディアだけではなく、出版、ネット等も含めた複合メディアの運営も可能でしょうし、さらには自分たちの思想を推進・拡散するための「ファンド」を設立して、選挙に出馬する候補者の育成や経済グループの結成を図るという大規模なアクションも不可能ではないでしょう。

 買収されてよかったことは、あくまで資金の流れが改善されたことです。吉田氏がそのような類のアクションを今後何も起こさなくならない限り、決して安堵できないと思っています。

Terence Toh Chin EngshutterstockオリックスによるDHC買収が発表され、歓迎の声もあがったが…… Terence Toh Chin Eng/Shutterstock.com

視聴者数やマーケット規模に圧倒的な差がある

 さらにもう一つ懸念される状況は、視聴者数やマーケット規模の圧倒的な差です。

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