[21]乱立による過剰供給と行政の責任
2022年12月07日
札幌市の納骨堂「御霊堂元町」で、競売にかけられた土地建物が落札され、運営主体である宗教法人白鳳寺が利用者に対して遺骨を引き取るように呼びかけたことで、納骨堂の実質的な経営破綻が発覚し、利用者は不安な日々を送っている。
この「御霊堂元町」は、2012(平成24)年に白鳳寺が札幌市から経営許可を受けて事業を始めた納骨堂である。
事件の経緯を簡単に説明すると、白鳳寺は納骨堂事業を始めるにあたって、事業資金として約3億円を市内の葬儀社から借り入れていた。だが、その借入金の返済が滞ったため、葬儀社が2021年11月に競売申し立てをしたところ、2022年7月、市内の不動産会社が約1億500万円で落札した。
納骨堂の所有権を得た不動産会社は、白鳳寺に対してこの土地建物の明け渡しを要求する。それを受けて白鳳寺は利用者に対して書面を送るとともに説明会を開き、遺骨を引き取るよう呼びかけたということである。
ところがその後、白鳳寺の代表者と連絡が取れなくなり、利用者が納骨堂に入ることができなくなるなど、状況は混迷を極めている。
この事件で最も被害をこうむったのは、納骨堂の利用者である。利用者は、30〜250万円の使用料を納めて使用権を購入し、家族の遺骨を納めている。「遺骨を持ち帰ってくれ」と言われても受け入れられるわけがない。説明会は当然のごとく紛糾し、誰一人納得した人はいなかった。
ちなみにこの納骨堂は全体で約1500基の納骨壇があり、そのうち773基が販売済みだという。
また不動産会社は当初、建物を取り壊して、マンションを建てる予定だったとのことだが、その後、「白鳳寺を承継し、納骨堂運営を再建し、社会貢献したい」と態度を変えている。
事件のあらましは前述の通りであるが、この報道を聞いて感じたのは、どうも説明のつかないことが多いということである。
まず1500基のうち、773基が販売済みということであるが、これは納骨堂事業としては、けっして悪い売れ行きではない。通常であれば、約半数を販売した時点で初期投資は回収され、それなりの利益が残っていてもおかしくない。仮に1基が平均70万円だとしたら、これまでに約5億4000万円の収入があったことになる。これだけの収入があって、返済が滞るというのはちょっと考えがたい。
極端な放漫経営や、プロジェクトを立ち上げる時点でブローカーの食い物にされた等、表に出てこない何らかの理由があるはずである。
また、借り入れ先の葬儀社が、競売申し立てをしたとのことであるが、白鳳寺と葬儀社との間で、かなり信頼関係を損なうようなことがない限り、競売という手段に出ることはあり得ない。
競売の申し立てをすれば、事業の継続は困難になってしまう。資金を回収することを考えれば、競売という手段に訴えることはしないはずだ。そうせざるを得ないトラブルがあったのは想像に難くない。
報道からは不明であるが、この葬儀社が、単なる資金提供者なのか、あるいは何らかのかたちでプロジェクトに関わっていたのかも気になるところである。
また不動産会社が土地建物を落札したことも、ちょっと理解しがたい。落札価格は1億円を超えている。札幌市内の土地で相場よりは安いことは想像できるが、それでも1億円である。これだけの金額で入札する以上、競売物件について調査をしていないはずはないだろう。
物件は納骨堂である。遺骨も納められている。建物を取得すれば、利用者が簡単に遺骨を引き取るとでも思ったのだろうか。普通のビジネス感覚では、遺骨を引き取ってもらえるという確信がない限り、入札はしないはずだ。
物件をちゃんと調べたのならば、更地にしてマンションを建てるという計画は考えられない。
また不動産会社は、その後、マンションの建設をとりやめ、納骨堂事業を引き継ぐことに方向転換した。
納骨堂事業は、株式会社などの民間企業がすることができない。そのため、宗教法人の役員に不動産会社の人間を送り込むことを検討しているという報道があった。ただ、宗教活動ではなく、納骨堂事業のために役員を送り込むことは、「(宗教団体は)宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする」という宗教法人法の主旨に反する行為である。
既に札幌市は、白鳳寺に新たな販売を禁止する行政処分を課しているが、役員変更という手段で宗教法人を引き継ぐことを認めて行政処分を取り消すとは思えない。
結論から言うと、この不動産会社が納骨堂事業を引き継ぐ可能性は極めて低いということだ。
なぜ不動産のプロが、こんな脇の甘い方法で、納骨堂の所有権を入手したのだろうか。あるいは、私には想像もできない、何か別の勝算があるのだろうか?
実は、納骨堂の破綻というのは、いつ起きてもおかしくないと、業界関係者の多くが危惧していたことである。
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