2022年12月15日
2022年のテレビ番組で印象に残ったものを5つ挙げる。
第5位『鎌倉殿の13人』(NHK)
『鎌倉殿〜』は人気があるのだろうか。こんな陰惨な話もない、というぐらい陰惨なことが続き、この先に光が見えるということもないし。
でも日曜日の夜9時頃にTwitterを見ていると『鎌倉殿〜』を見た人たちで阿鼻叫喚の世界になっていて、陰惨なドラマだから見るのをやめる、のではなくて陰惨だけど見てしまって見るたびにぎゃーぎゃー叫んでいる。なんなんだろうこれは。かくいう私も見ていて、見ながらいつも「あーあーあー……こんなことになっちゃって」「つーか小四郎(北条義時=小栗旬)、こうもわかりやすい悪役になっちゃって」「誰かさっさと小四郎を暗殺しろよ」とかぶつぶつ言っている。
とにかく北条義時が悪の策謀家になってしまって、まわりの人間を死に追いやる。史実としてもその通りだ、というのは、呉座勇一さんの『頼朝と義時──武家政権の誕生』(講談社現代新書)を読んでみてもよーくわかる。ひどい時代だったし(この本をトイレに置いて読んでいたが、用を足すたびに人が殺されていくのでなんともいえない気分になった)、源頼朝も北条義時も「どんだけ家族親類縁者まで殺しとんねん」というほど死んでいる。それをドラマにしたらこうなるだろう。
ただ、不思議なことに、小四郎はやっていることの陰惨さのわりには嫌われていない気がする。ネットでぎゃーぎゃー言われるのも憎まれて言われてるって感じじゃない。困ったやつとして愛されている感すらある。それは主人公だから、というわけではない(朝ドラの『ちむどんどん』は主人公でもあんなに嫌われてた……。一緒にしてはいけないが)。
一人の心優しい男が、時代に翻弄されどうしようもなく闇にのまれる……なんて、見飽きてゲップが出るようなストーリーであるが、ちゃんと力量のある人たちによって描かれれば心を動かすのだ。歴史の哀しさと、ふとそこに立ち現れる滑稽さみたいなもんが、見る者をこの陰惨なドラマに惹きつけるのか……と、世相が暗いのも相まって思わされた。
そして最終回を前にして、小四郎は自分の首を後鳥羽上皇に差し出すとか言いだし、闇落ち主人公がふと気弱だった自分を取り戻した瞬間……そこに敢然と尼将軍が「お前ら板東武者の心意気見せろや!」と名演説。小池栄子が異様にかっこいい。ああ、こうやってカタルシスに持っていくのだな。これでもうこの『鎌倉殿〜』は名作に決定したようなものである。
だとしても私は、小四郎という男は器の小さいイヤなやつだという気持ちは捨てられないし、あの政子の演説を聞いて「いくぞー! おー!」と鬨(とき)の声をあげていたサムライの中にも「……なんかうまいことやられてるなオレ、でももう行くしかないか」とか思っているやつもいるんじゃないか、とか思ってしまうのだが。三谷幸喜もさすがにそんなことはわかっているだろうから、最終回はまた心がどんよりする、そして異様なほどの余韻を残すような終わり方になる可能性も高い……。それでも『鎌倉殿〜』は名作として後世に残るだろう。
第4位『エルピス ─希望、あるいは災い─』(関西テレビ、フジテレビ系)
話題作。始まる前から話題になっていた。冤罪事件を扱うテレビ局の人間、のドラマ。志の低いバラエティ番組で冤罪事件を取り上げたって意味ねーんだとうそぶくプロデューサーやら、どうもその冤罪事件が時の政権の何かをつっついてしまいそうになってつぶしにかかってくるテレビ局の上層部、やんわりと手を引けと言ってくる政治部記者の恋人、というのはまあ、ある意味わかりやすい話だ。ここから「テレビ業界でチャラチャラしていた人間が、社会問題に目ざめて、そして悪を暴く」のか「途中で挫折する」のかわからないが、そういうドラマとして、納得して見ている。
脚本が渡辺あやなので、こういうドラマによくある、いかにも安っぽいような場面や展開はない。いかにもなキャラは出てくるが、そのキャラたちはドラマの進行につれてどんどんキャラを変えていく。それもちゃんと変化が納得できるように描いてある。よくできたドラマだと思う。ちょっと都合よすぎる話じゃないかと思うところもあるが。
ただ、この『エルピス』が放映されるまでにはいろいろ紆余曲折があって、最初に企画した時には局からダメ出しくらって、ドラマ化のために敏腕女性プロデューサーがそれまでいたテレビ局をやめて別の局に移った……なんていう話がネットのインタビューで語られた。
そのせいか、「このドラマが、実際に制作され、放映までこぎつけたこと」が、「ドラマの中の、恵那や拓朗(長澤まさみと眞栄田郷敦。このドラマの主人公2人)が冤罪事件の真実に迫ること」と二重写しみたいに見られている、ような気がする。
え? いやそこは別に関係ないことでは。
この『エルピス』がどういう終わり方をするのか今の時点ではわからないが、ドラマの中で何かの希望が見えるにしろ、闇に堕ちるにしろ、それが現実のこの女性敏腕プロデューサーおよび有能で志の高い女性脚本家がこれからどう歩むのかということとは、まったく無関係なことだと思う。けど何か関連づけられて語られそうでいやだなあ。
第3位
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