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[2022年 テレビベスト5]旧統一教会報道とドラマが描いた陰惨な世界

青木るえか エッセイスト

 2022年のテレビ番組で印象に残ったものを5つ挙げる。

第5位『鎌倉殿の13人』(NHK)

 『鎌倉殿〜』は人気があるのだろうか。こんな陰惨な話もない、というぐらい陰惨なことが続き、この先に光が見えるということもないし。

 でも日曜日の夜9時頃にTwitterを見ていると『鎌倉殿〜』を見た人たちで阿鼻叫喚の世界になっていて、陰惨なドラマだから見るのをやめる、のではなくて陰惨だけど見てしまって見るたびにぎゃーぎゃー叫んでいる。なんなんだろうこれは。かくいう私も見ていて、見ながらいつも「あーあーあー……こんなことになっちゃって」「つーか小四郎(北条義時=小栗旬)、こうもわかりやすい悪役になっちゃって」「誰かさっさと小四郎を暗殺しろよ」とかぶつぶつ言っている。

 とにかく北条義時が悪の策謀家になってしまって、まわりの人間を死に追いやる。史実としてもその通りだ、というのは、呉座勇一さんの『頼朝と義時──武家政権の誕生』(講談社現代新書)を読んでみてもよーくわかる。ひどい時代だったし(この本をトイレに置いて読んでいたが、用を足すたびに人が殺されていくのでなんともいえない気分になった)、源頼朝も北条義時も「どんだけ家族親類縁者まで殺しとんねん」というほど死んでいる。それをドラマにしたらこうなるだろう。

 ただ、不思議なことに、小四郎はやっていることの陰惨さのわりには嫌われていない気がする。ネットでぎゃーぎゃー言われるのも憎まれて言われてるって感じじゃない。困ったやつとして愛されている感すらある。それは主人公だから、というわけではない(朝ドラの『ちむどんどん』は主人公でもあんなに嫌われてた……。一緒にしてはいけないが)。

 一人の心優しい男が、時代に翻弄されどうしようもなく闇にのまれる……なんて、見飽きてゲップが出るようなストーリーであるが、ちゃんと力量のある人たちによって描かれれば心を動かすのだ。歴史の哀しさと、ふとそこに立ち現れる滑稽さみたいなもんが、見る者をこの陰惨なドラマに惹きつけるのか……と、世相が暗いのも相まって思わされた。

小栗旬さん(左)と坂口健太郎さん=2022年11月3日拡大『鎌倉殿の13人』に出演している北条義時役の小栗旬さん(左)と北条泰時役の坂口健太郎さん=2022年11月3日、愛知県一宮市で開かれたトークショーで

 そして最終回を前にして、小四郎は自分の首を後鳥羽上皇に差し出すとか言いだし、闇落ち主人公がふと気弱だった自分を取り戻した瞬間……そこに敢然と尼将軍が「お前ら板東武者の心意気見せろや!」と名演説。小池栄子が異様にかっこいい。ああ、こうやってカタルシスに持っていくのだな。これでもうこの『鎌倉殿〜』は名作に決定したようなものである。

 だとしても私は、小四郎という男は器の小さいイヤなやつだという気持ちは捨てられないし、あの政子の演説を聞いて「いくぞー! おー!」と鬨(とき)の声をあげていたサムライの中にも「……なんかうまいことやられてるなオレ、でももう行くしかないか」とか思っているやつもいるんじゃないか、とか思ってしまうのだが。三谷幸喜もさすがにそんなことはわかっているだろうから、最終回はまた心がどんよりする、そして異様なほどの余韻を残すような終わり方になる可能性も高い……。それでも『鎌倉殿〜』は名作として後世に残るだろう。


筆者

青木るえか

青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト

1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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