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『喜劇 老後の資金がありません』にダブル主演 渡辺えり×室井滋(上)

ストレートと変化球で漫才コンビのように面白くなる!

米満ゆうこ フリーライター

 2021年に初演された舞台『喜劇 老後の資金がありません』が、再び戻ってくる。垣谷美雨のベストセラー同名小説を原作に、主婦の篤子が、老後のために貯めていた資金が思わぬ出費で減っていき、四苦八苦するというコメディ。初演で篤子を演じた渡辺えりが今回も続投し、篤子の親友のサツキ役には室井滋を新たに迎える。意外にも今作が舞台初共演で、主演としてコンビを組む2人に、作品から老後の資金やお金の使い方、演じること、書くこと、老後の仕事に至るまで、井戸端会議のように楽しく、大いに語ってもらいました。

歌って踊って、毎回倒れ込むようなハードな舞台

渡辺えり(左)と室井滋=宮川舞子 撮影拡大渡辺えり(左)と室井滋=宮川舞子 撮影

――2023年の1月から再演の幕が開きます。

渡辺 再演が決まって本当にうれしかったです。初演は歌って踊って、毎回倒れ込むようなハードな舞台だったんですけど、カーテンコールが5、6回続いて。お客さまに勇気を与えて印象に残る作品だったんだなと。コロナ禍でマスクを着けて、話もできない不自由で過酷な稽古だったんですけど、その甲斐がありました。この芝居をやって、老後を考えないといけないと反省しまして、今、資金をどうしようか考えています(笑)。

室井 再演でサツキ役に抜擢していただき、驚きと嬉しい気持ちですね。舞台は久しぶりなんですけど、えりさんについて行って頑張ろうと思います。老後は、うちの祖母が長生きだったので、隔世遺伝でいくと私も長生きかと思います。でも認知症になってしまったので、私もおそらく……。だから記憶力をつけようと思って、私はスマホじゃなくてガラケーなんですけど、電話番号を50件ほど覚えています。あとは体幹を鍛えること。お金はどうしたらいいんですかね? この稽古中や本番も踏まえて、しっかり考えたいと思っています。

渡辺えり=宮川舞子 撮影拡大渡辺えり=宮川舞子 撮影〈ヘアメイク:新田美佐子、スタイリスト:矢野恵美子、衣装協力:アクセサリー/アビステ〉

――2人は初共演です。それぞれ期待するところは?

渡辺 初演でサツキを演じた高畑淳子さんはストレートな表現をされる方で一緒に演じていて楽しかったです。室井さんはストレートというより変化球が面白い方だと思っているんです。感受性が豊かでセンスもある。この言葉選びは、センスがないかな?(笑)  面白いニュアンスで変化球の芝居をなさるんじゃないかと。私がストレートなタイプですから、漫才コンビのように面白くなると思います。初演と全然違う親友役が見えてくると思います。

室井 えりさんは演出家でもいらっしゃるので一見、「任せておきなさい」という風に見えると思うんですけど、実際はとてもかわいらしい方なんじゃないかと。私はぶっきらぼうでおっちょこちょいなので、そういうところがうまく芝居に合い、楽しくなるかなと思っています。サツキは健気でしっかりした人に見えるんですど、台本をちゃんと読んでみると、詐欺まがいのこともするし、実は悪いヤツなんじゃないかと(笑)。

渡辺 ハハハッ。

室井 初演では悪い感じには描かれていなかったので、私は悪人の要素を少しだけ出してギャップをみせられたら楽しいかなと考えています。えりさんにも演出してもらいたいですし、教えてもらいたいことがいっぱいあるので修業のつもりで頑張ります。

渡辺 私が演じる篤子はいいところのお嬢さんで、成人式で皆が振袖を着る中、スーツを着ていたような人。革新的な思想を持った人が同級生と結婚して、世の中の不平等さに押しつぶされながらも主婦をし、働きながら生きてきたしっかり者。でも冠婚葬祭をきっかけに、自分が意外に見栄っ張りだったり、心配性だったりと色んなことに直面していく。夫もふがいなくて、将来の老後の資金が不安で仕方ない中、清楚で堅実に見える、自分とは考え方の違うサツキに出会い、影響を受けることで精神を保っていく。彼女に出会えなければ、鬱病になっていたかもしれないんじゃないかと。

室井滋=宮川舞子 撮影拡大室井滋=宮川舞子 撮影〈ヘアメイク:鈴木將夫〔MARVEE〕、スタイリスト:多木成美(Cコーポレーション)、衣装協力:ブラウス/CAWAII(0120-990-577)、ブローチ/ABISTE(03-3401-7124)〉

室井 血液型でいうと、サツキはB型なんじゃないかな。サツキは旦那さん命。旦那さんという支えがあるので、どんなに貧乏で義理のお母さんが大変なことになっても、この幸せを貫きたい。旦那が浮気したりいなくなったりしたら、結構、もろいんじゃないかな。その旦那を支えるために、悪いこともしちゃう。

渡辺 なるほど、面白い解釈だね。

室井 結構、篤子を利用してるっていうか。

渡辺 気付かなかった。

室井 抜け目がない。突っ走るB型なんじゃないかな、すみません、B型の皆さん。

渡辺 お客さんがサツキ一家のほうが幸せに見えるって言ったの。篤子の家庭のほうが冷え冷えとしてる。その対比が出たらいいね。

室井 すごく旦那が好きなんですよ。

渡辺 なるほど。これは面白くなりますね(笑)。

室井 よろしくお願いします(笑)。

高齢者が愛を与え、幸せのあり方を考える社会に

渡辺えり(左)と室井滋=宮川舞子 撮影拡大渡辺えり(左)と室井滋=宮川舞子 撮影

――今の社会では、長生きすることはリスクがあるという雰囲気もあると思うんですが、どう考えますか。

渡辺 私の両親も認知症で父は95歳で亡くなり、92歳の母はまだ生きています。日本は介護施設や介護職員にお金をたくさん使わないといけないのに、政治家は自分に投票する人ばかりを大事にする。そこが根本的に間違っていると思うんです。人間の精神性を支えるような職業の人たちに、もっと手厚い保障を与えれば、介護される側も自由にのびのびと生きられるし、認知症にもなりにくくなるんじゃないかと。

 あと何年かしたら、薬が開発されて認知症はなくなると思うんです。ところが、その薬は200万円ぐらいするみたいで……。金持ちしか長生きできないのかと、とても悲しくなります。何でもクールに合理的に生きるのではなく、愛情や情などの精神面に重きを置いた教育制度が必要だと思うんですよね。そこから変えていかないと老後の問題は解決しない。

 私も人間ドックに行くと「ほどよく脳が委縮していますね」と言われるんですよ(笑)。ちょっとずつ委縮していくのはあたり前ですよね。食生活に気を付けて、運動し、認知症にならないように皆で心がけて、最後まで働けるようにしておけば何とかなるんじゃないかと。金持ちが独り占めしなければ、周りにも薬が回ると思うんで、諦めないで、私たち高齢者が愛を与える活動をしていかなくちゃいけないと思っています。

室井 コロナ禍に入って、年を取ったらどういう風に暮らすかということが以前よりもはっきりくっきりしたような気がします。お金のある人はホテルのような豪華な施設に入って、お金がなかったら順番待ちの施設に行くみたいな現状。

 私の祖母は私が中学生ぐらいのころから認知症になりまして、両親が離婚していたので、私と父と祖母の3人暮らしでした。でも父があまり家にいない仕事をしていたので、祖母との2人暮らしが長かった。今から思うとヤングケアラーだったんだなと。大学に行き、演劇の道を進みたいと思って祖母を街の施設に入れたんです。祖母を施設に入れたことはいまだにちょっと引っかかります。大好きな祖母だったので、かわいそうなことをしたなと今でもやっぱり思います。そういう思いをする家族や本人がドンドン増えるんですから、これから先、幸せのあり方みたいなことを社会全体で真剣に考えなきゃいけないなと。このお芝居で何か参考になったり、きっかけになればと思います。

渡辺 父親が亡くなって、介護施設の方から寄せ書きが送られてきたんですよ。父がいつも何かと「ありがとう」と声をかけて励ましてくれて、希望だったと。それ読んで泣いたんですよね。父親はよく人を褒めたり「おおーっ、いいね!」と言う人だったので、亡くなるまでそう言ってたんだと。私、あまり言わないタイプなので、性格を直さなきゃ(笑)。

室井 好かれる年寄りにならないと、ですよね(笑)。

渡辺 幸せは誰かに求められたり、いてよかったと思われたりすること。「早く死んでくれ」とは思われたくないじゃない? 何か役立つことをしたい。お金があっていいところに暮らす幸せではなく、人と会い話す幸せ。貧しくても分け与える。癌で11年前に亡くなった私の親友はいつも物をくれたんです。彼女のくれた品を見てると涙が出てきて……。物をあげるのも大事だなと思いました。

室井 (笑)。

渡辺 森光子さんからもらったお盆を使うたびに思い出して泣けてきたりしているんです。それで私も70歳になったら古希祝いに何かみんなに差し上げようか?と思いました。思い出は大事にしたいなと。室井さんがくれた扇子とかも思い出の品になるんだもんね。

室井 ずっと持っておいてください(笑)。

渡辺えり(左)と室井滋=宮川舞子 撮影拡大渡辺えり(左)と室井滋=宮川舞子 撮影

――ご自身の金銭感覚はいかがですか。

渡辺 演劇には惜しみなく使ってしまいますね。私の劇団、オフィス3○○はどうやっても何百万と赤字なんですよ。それでもチケットを安くして、赤字を出すぐらいだから金銭感覚はないのかな。でも、離婚して稽古場を売ったお金でマンションを買いましたから、いざとなったらそれを売ればいいんじゃないかと。世の中にはお金を捨てるように使うお金持ちがいるじゃないですか。演劇をやって何が悪いんだと言いたいですけどね。

室井 私はものすごく食道楽なので、食べ物にはいくらでも払ってしまいます。貴金属や宝石も持ってなくて興味もないんですね。でも、お金の価値が変わるから、金を買ったほうがいいと皆に言われ、買いに行ったら、すごい税金を取られて得なのか損なのか。

渡辺 何で金を買うの? 何のため?

室井 金が一番安定しているからですよ。いつか換金してお金にするわけです。

渡辺 でも、千年後、何に使うから価値があるの? そこが理解できないの。ダイヤは見て美しいけれどそれを採掘している人たちは貧しい。金はなんでみんなが欲しがるのか?  社会の仕組みが良く分からない。金を取っとくと何のためになるの?(笑)。

室井 今度ゆっくり説明します(笑)。

◆公演情報◆
喜劇『老後の資金がありません』
京都:2023年1月14日(土)〜28日(土) 南座
東京:2023年2月1日(水)〜19日(日) 新橋演舞場
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:垣谷美雨(中公文庫)
脚色・演出:マギー
[出演]
渡辺えり、羽場裕一、長谷川稀世、原嘉孝、多岐川華子、一色采子、明星真由美、松本幸大(ジャニーズJr.)、宇梶剛士、室井滋
〈渡辺えりプロフィル〉
 1978年に劇団2○○(その後劇団3○○に改名)を結成し主宰をつとめる。劇団では作・演出・出演の三役を担い、1983 年『ゲゲゲのげ~逢魔が時に揺れるブランコ』で岸田國士戯曲賞、1987年『瞼の女 まだ見ぬ海からの手紙』で紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。2019年には日本劇作家協会会長に就任し、舞台劇術の発展に尽力している。1997年に、映画『Shall weダンス?』で日本アカデミー賞最優秀助演女優を受賞。近年の主な舞台出演には、『喜劇 有頂天旅館』、『喜劇 有頂天一座』、『喜劇 有頂天団地』、『喜劇 有頂天作家』をはじめ、『三婆』、『喜劇 お染与太郎珍道中』などがある。
公式ホームページ
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〈室井滋プロフィル〉
 富山県出身。早大在学中の1981年に映画『風の歌を聴け』でデビュー。映画『居酒屋ゆうれい』、『のど自慢』、『 OUT 』、『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』などで数多くの映画賞を受賞。また、ディズニー映画『ファインディング・ニモ』、『ファインディング・ドリー』日本語版のドリーの吹替えを担当。2012年日本喜劇人大賞特別賞、2015年NHK連続テレビ小説『花子とアン』で第36回松尾芸能賞テレビ部門優秀賞を受賞。エッセイストや絵本作家としての才能も発揮。絵本『タオルちゃん』、『しげちゃんのはつこい』、『会いたくて会いたくて』、エッセイ『ヤットコスットコ女旅』他多数。
公式ホームページ

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筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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