
近代日本の夜明けを、海外の視点から描いたミュージカル『太平洋序曲』が、2023年3月8日〜29日東京日比谷の日生劇場、4月8日〜16日大阪の梅田芸術劇場メインホールで上演される。
ミュージカル『太平洋序曲』は、江戸時代末期の日本が長く続けてきた鎖国を黒船来襲によって解き、開国を果たして西洋化へ向かうまでの激動の日々を描いた、ミュージカルの巨匠スティーヴン・ソンドハイムの作品。今回の上演は、梅田芸術劇場と英国メニエールチョコレートファクトリー劇場との共同制作で、西洋と日本が融合したアプローチにより新たな幕を開ける。
そんな作品の“決起集会”が、ペリー来航所縁の地でもあるという、都内の海の見えるホテルで行われ、物語全体を俯瞰しながら進行する狂言回し役をWキャストで演じる山本耕史と松下優也。浦賀奉行としてペリーとの交渉に臨み、次第に西洋文化に傾倒していく香山弥左衛門のWキャスト海宝直人と廣瀬友祐。漂流し流れ着いた米国から帰国し、日本が開国に向かう中で武士道に目覚めるジョン万次郎のWキャストウエンツ瑛士と立石俊樹が集結。公演に向けた抱負を語った。
こんなキラキラな感じの中に混ざっちゃっていいのかな(笑)
“決起集会”は配信が予定されていることもあって、トークショー形式でスタート。これが初顔合わせだという6人が、今日の印象を語るところから会話が弾んでいった。

前列左から、ウエンツ瑛士、山本耕史、海宝直人、後列左から、立石俊樹、松下優也、廣瀬友祐=岩田えり 撮影
【トークショー】
──皆さんがお揃いになるのは今日が初めてということですが、山本さん、この男ばかりの顔合わせはいかがですか。
山本 本当に皆さんが格好よすぎて。僕は若く見えるかもしれないけれど、だいぶ世代が上なので、こんなキラキラな感じの中に混ざっちゃっていいのかな(笑)と思っています。
──ウエンツさん、どんな話をされたのですか?
ウエンツ 僕はその若い側にいる顔はしてましたけれど、年齢は僕も結構上なのでちょっとごまかしてました(笑)。初対面の方もたくさんいらっしゃいますが、徐々に仲良くなっています。袖で待機しているときが一番楽しくなって、大きい声を出したら「うるさい」と怒られました(笑)。
──この決起集会で皆さんの絆も深めていただければと思いますが、まずは皆さんそれぞれの役柄を含めて、意気込みをお願いします。

山本耕史=岩田えり 撮影
山本 役自体が「狂言回し」という役なので、例えば名前があって狂言回しの役割りも担っているというパターンはよくあるんですが、役名が狂言回しというところがすごく面白いなと思っていて。狂言回しとして皆さんが見るだろうし、だからこそ何か逆手にとって、面白く裏切る瞬間が、どうやらありそうな気がするんですよね。ですから狂言回しでありながらも、まだ本が完成していないのですが、作品のなかで色々な人になっていくのでは?など、様々に想像しながら、チャレンジできるような役になるのかなと思っています。本当に皆さんと一緒にやれるのがとても楽しみで。全体像はまだこれからなんですけれども、僕もこれだけの大作は久しぶりなので、初心にかえった気持ちで頑張りたいと思います。よろしくお願いします。

松下優也=岩田えり 撮影
松下 正直のところ、まだすごく未知でして、狂言回し役の説明としては、ストーリーの大半を舞台上で過ごす。その中で狂言回しとしてもいるし、たまには狂言回しではなく、誰かとしても演じたりする、カメレオンみたいな存在として書かれているんです。きっと出ているシーンがすごく長いのと、セリフ量がおそらくとてつもなく多いので、そこは頑張りたいと思います。演じる人によって、いろいろな解釈ができるお話だと思っているので、そこはWキャストだからこそ楽しみたいなと思います。組も固定ではなくいろいろな方と一緒にお芝居ができるので、それを楽しみに自分も稽古を励みたいと思っています。

海宝直人=岩田えり 撮影
海宝 香山弥左衛門は開幕のときには、浦賀奉行所の決して位の高くない侍なんですけど、将軍から「お前が海外から来た黒船の外国人たちを追い出せ」という無茶な大役を押し付けられてしまって、そのなかで何とか奮闘しながら、万次郎と共に頑張りながら、最終的にはその役割を果たして出世していく役ですね。
──今日決起集会を行っているのがペリー提督来航の所縁の地で、異国の船を攻撃する砲台を作ろうとした名残りもあるので、香山弥左衛門もこの景色を見ていたかもしれません。
海宝 日本で上演することに、とても意味や意義がある作品になるなと思います。時代ごとに伝わるものがあって、ラストも「NEXT」という曲で終わりますが、やはり時代が進めばその「NEXT」の内容はどんどん先に進んでいくでしょう。その時代を生きている人たちが何を感じるかが面白い作品ですね。それを海外のクリエイターチームと日本人キャストとが共に作ることに、ものすごく大きな意味を感じていますので、ぜひ楽しみに劇場に来ていただけたらなと思います。

廣瀬友祐=岩田えり 撮影
廣瀬 まだ正直捉えられていないのですが、演出のマシュー(ホワイト)が「この物語は日本史の転換期で、政治的問題などが色々と出てくる中で、香山という平凡な男が権力を持っていく物語でもある」と話していて。あとは、登場人物のキャラクターがかなり濃い中で、香山は至って普通の男になりそうなので、お客様が1番感情移入しやすいんじゃないかなというところで、寄り添える役になるのかなと思っています。素晴らしい俳優の方々とご一緒できることを本当に誇りに思っています。香山という役割をしっかりと果たせるように一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします。

ウエンツ瑛士=岩田えり 撮影
ウエンツ 史実に基づいていて、ジョン万次郎が漂流して、アメリカで長いこと過ごしたのち、日本に帰ってきて、物語の前半は「囚人」という立ち位置から始まります。彼自身の思いもそうですし、生きながらえる為にやらなければならないことや、日本の為に何が必要かなど、いろいろな思いがジョン万次郎自身にもあったと思うんです。特にこの作品のなかでは、本音だけでは生きていけないような立場にいた人物なので、彼の本音とはまた違う気持ちも交えて演じながらも、香山との関係性などが後半に向けてどうなるかを、楽しみにしてもらいたい役どころです。この『太平洋序曲』という作品で僕が一番素敵だなと思うのが、(脚本の)ジョン・ワイドマン氏だったり、(作詞・作曲の)スティーヴン・ソンドハイム氏だったり、海外の方によって作られていることです。日本人から見た日本史とはまた違う側面を歴史好きの方にも楽しんでいただける部分もあると思いますので、その中でジョン万次郎という役をしっかり務められるように頑張っていきたいと思います。

立石俊樹=岩田えり 撮影
立石 ペリー来航の際に香山弥左衛門と一緒に協力をして、そこから友情を育み、また再会した時に2人は……。
──その辺りは、あまり詳しく話しすぎない方が……。
立石 あ! そうですね(笑)。とにかく普通では考えられない数奇な運命をたどっていると思います。漁師から始まりまして、漂流して143日間を生きながらえたジョン万次郎という役はすごく生命力に溢れていて、自分自身、彼のことを調べていくうちにフィードバックがあるというか、自分も影響を受けている偉大な人物だなと思います。この人物を演じるにあたって、素敵な俳優さんたちと、そして日英合作で作り上げるということで、とても刺激的な毎日になりそうです。体当たりでぶつかっていきたいと思います。楽しみにしていてください。
ここから、“決起集会”のためにあらかじめ公募された質問から選ばれた、キャストそれぞれに対する一問一答のコーナーへ。記者目線でない意外な質問が、6人の会話をさら弾ませていく。

ミュージカル『太平洋序曲』決起集会から=岩田えり 撮影
【質問コーナー】
──まず山本さんへのご質問です。「鎖国政策を敷く日本が舞台の作品ですが、山本さんがこれだけは譲れない、破れないと思っていることはなんですか?」
山本 これだけは譲れない、破れないものですか? そうですね、筋トレは朝一番にというのは譲れないですね。仕事をした後だとちょっと疲れているので最初にやっておく。家族が起きる前に済ませていますから。朝の5時からやって家に帰って、何も行われていなかったかの如くに皆を出迎えるという。
──筋トレをしないと1日が気持ちよく迎えられない感じですか?
山本 気づいたらもうトレーニングウェアなんです。毎日それで寝ているので(笑)。そのままトレーニングに行ける状態になっていて、避けては通れないようになっています。前の日からそうなっているので、それは譲れないですね。たまに夕方に行ったりすると、ちょっとなんかテンションが違うんですよ。
──他の方はどうですか? 廣瀬さんもスポーツマンだから、筋トレはやりますか?
廣瀬 特に譲れないものはないですね。
──柔軟なお答えをありがとうございます!(笑)。では続いて松下さんへです。「本日初集結ということですが、顔合わせで「はじめまして」の方がいる時に、鉄板の自己紹介があったら教えてください」
松下 あー、俺に一番訊かない方がいい質問なんでけど(笑)、鉄板も何もないですし、仕事のなかで顔合わせが一番苦手なんです。だから上手くやれている人の次に回ってきたりすると「やめてくれ~」と思いますね。前の方がすごく長く話されてるのに、俺は挨拶しかしないっていうね。先輩方何かないですか?
山本 でもリラックスしているように見えるよ。
ウエンツ 結構長く喋っていらっしゃいますよね(笑)。
松下 意味のないことを適当に喋っているだけだから(笑)。
山本 顔合わせが得意な人ってあんまりいないんじゃないかな。
松下 山本さんはめちゃめちゃ得意そうです! さっきもひとりずつに話しかけてきてくださったし。
山本 いやいや、歳も上だから。まぁ、顔合わせって最初に皆に提示する場だからね。何かは言いますけど。
松下 ウエンツさんは定番の何かありそうですよね?
ウエンツ いや、そんなの持っていないって!(笑) 逆に訊きたい。定番って何? そんなの持っている人いるの?(笑)
──では質問の答えとしては「定番はありません」ですか?
ウエンツ あぁでも向こうも緊張していると思えば楽かもしれないですね。自分だけじゃなくて相手も緊張している、一緒だよと思って話しかけるといいんじゃないでしょうか。
──ありがとうございます! では海宝さん「息子と一緒に観にいきます。彼にとって初ミュージカルです。どうかミュージカル好きになるように、見どころをお願いします」
海宝 ミュージカル、舞台って劇場に行くのが一番早いんです。映像もありますけれども、実際生でオーケストラや人が歌ったり踊ったりしているのを観ることで好きになれると思います。僕もそうでしたから。
──いくつくらいの時でしたか?
海宝 僕は、2、3歳です。(皆が驚くので)姉が『アニー』という作品に出ていたので。
山本 男の子なのに『アニー』に!?
海宝 いえいえ、出ていたのは姉です!(笑)
山本 あぁ(笑)。でも初ミュージカルが『太平洋序曲』なのはすごいね!
海宝 なかなかないことですよね。難しいところもありますが、楽しいシーンもこの作品にはいっぱいありますので!
──ありがとうございます。では廣瀬さんへ。「自分はこれをされたら心を開いてしまう、ということはありますか?」
廣瀬 すごく褒めていただけると気持ちがよくなって心を開いている瞬間がありますね。
──褒められて育つタイプですか?
廣瀬 いや、そうでもないんですけど、褒められると調子に乗っちゃうところがあります。あまり心を開くというのが得意なタイプではないのですが、褒められると調子に乗っちゃいます。
──他の方はどうですか?
松下 めちゃめちゃ大阪っぽいかもしれないんですけど、「飴ちゃん」もらうと心を開いちゃいますね(笑)。稽古場で隣同士になって「飴食べていいよ」とか言われたり、仕事先でも急に飴を渡されたりすると、嬉しくてキュンときちゃいます。
──関西の方にはそういうテイストがあるんでしょうか?
松下 なんなんですかね。自分はあげないんですけど(笑)。もらうと自分のことを受け入れてくれていると思っちゃうところがあるかもしれません。

ミュージカル『太平洋序曲』決起集会から=岩田えり 撮影
──なるほど。ではウエンツさん。「人見知りで初対面の方と話すのが苦手です。初対面の方に会う機会が多いだろうウエンツさんに、初対面の方と仲良くする秘訣があれば教えてください」とのことですが、ウエンツさんは留学していた時は全ての人と初対面ですよね?
ウエンツ 小さい頃からこの仕事をやらせていただいていたので、日本ではほとんどの方が僕を「ウエンツ瑛士」と知っている段階から会えていたんです。ですからその人が持っているイメージの上で話すみたいな感じだったんですが、留学してはじめて僕のことを知らない人に会うとになった時に、こんなにちゃんとした自己紹介ができないんだと思いました。今まできちんと自己紹介をしたことがなかったので。ですから僕もこの相談者の方と変わらないくらい「自己紹介赤ちゃん」です。
──ではどんな風に紹介していたんですか? 「日本のFamous Actorです」とか?
ウエンツ 言わないですよ! そんなこと言ったらドン引きです!(笑)。自己紹介をしようとする前に、自分はどんな人間なんだろうか?と知ろうとしてから、自己紹介をするのも楽になりました。まず自分を知ろうとしたら、意外と発見もあったので。
山本 素晴らしいですね! まさにいまのが答えですね。
──本当に! では立石さん。「もし立石さんがジョン万次郎さんだったら、日本に帰ってきて一番食べたいものはなんですか?」
立石 やっぱり納豆ですね。海外に行ったらその土地のものも美味しく食べるのですが、やっぱり和食が食べたくなってきて、日本らしいものが食べたいなと思うと納豆ですね。
──でもそれは立石さんご自身の答えですよね? 「ジョン万次郎だったら何を食べたいですか?」というご質問です。
ウエンツ それむちゃくちゃ難しいですよ!
松下 いや、役を演じるわけだからそんなに難しくはないんじゃないですか?
ウエンツ だって、まだ実際に演じる台本もできていない段階だよ?(笑)。まぁそうですね、きっと脂っぽいものばかり食べていただろうから、魚かな(笑)
──皆さんありがとうございました。もう少しだけ時間がありますので、こちらからの質問です。6人揃ったのは今日が初めてですが、それぞれ皆さん接点はお持ちだったのでは。海宝さんとウエンツさんは劇団四季の『美女と野獣』のチップ役で共演していますよね?
海宝 小学校1年生とかそんな時です。
──まさかそれ以来ではないですよね?
海宝 それ以来ですよね。
ウエンツ それにあの時は同じ役でしたから、共演と言っても本番が始まっちゃうと会うことはなくて。僕は4年生でした。
海宝 幼い自分にとっては、だいぶお兄ちゃんでした。
ウエンツ そう僕が4年生で、海宝さんが1年生だから、4年生が1年生に嫉妬しちゃいけないじゃないですか。でもね、子どもながらに「今日は偉い人が来る」というときのキャスティングとか、そういうのはすごく覚えていてひきずるのよ(笑)。今日は大事な日だよっていう時のキャストは海宝くんなんです!(笑)。当時から素敵だったので。まさか僕も小4で嫉妬という気持ちを覚えるとは(笑)。そのあとも色々な作品を観させていただいてますが本当に素敵なので、今回の共演が嬉しいですし、楽しみです。
──他のみなさんはどうですか?
山本 共演しているのは海宝くんだけかな。(ウエンツに向かって)ないよね?
ウエンツ ないです。
山本 共通の知り合いの俳優さんたちが多すぎて、何か一緒にやっている気持ちになってるんですけど、おそらく舞台上で一緒にやっているのは海宝くんだけです。それも3年ぶりくらいだよね。
海宝 そうですね、2年半から3年くらいです。
廣瀬 僕は海宝さんと松下さんと共演しています。
松下 廣瀬さんとは7年ぶりぐらいですよね。
立石 僕は初めての方ばかりですが、同じ役を過去に演じてこられた方はお2人いますね。『ロミオ&ジュリエット』で廣瀬さんがティボルト役を演じられたのを引き継ぎましたし、『黒執事』で松下さんが初代セバスチャン役を演じられています。
──そうしたつながりがありながら、今回は同じ舞台で絆も深めていかれることでしょう! ではそろそろ配信されるお時間が終了となりますので、山本さんから代表してご挨拶をお願いします。
山本 これからどんどん膨らませていって、今後どういうふうに皆が解釈していくのか。素晴らしい作品になることは間違いないと思っています。あと、見どころとしては、これだけの人数がスイッチしていくこと。松下さんと僕が一緒になる可能性もないとは言えませんからね?(笑)。一緒に出てくるとかね、こういうご時世だから同じ舞台上というのもあるかもしれない(笑)。ですから1人あたま大体100枚ぐらいチケットを買っていただいても、それぞれ自分だけの『太平洋序曲』が見つけられるんじゃないかなと思います。「昨日のここはあの人だったけど、明日はここだけこの人」みたいな。それによって全く変わってくると思うので、全部で何通りあるかちょっと僕も計算しておきますけど(笑)。本当に僕自身も全通りを観たいので、皆さんどしどし観に来てください!
キャストがカメラに向かって手を振って、配信になる“決起集会”は終了。最後に集まった記者との質疑応答が行われた。

前列左から、ウエンツ瑛士、山本耕史、海宝直人、後列左から、立石俊樹、松下優也、廣瀬友祐=岩田えり 撮影
【質疑応答】
──皆さんが思うミュージカルの魅力を、この瞬間が好き!ということもあわせて教えてください。
山本 やっぱりお客さんが何かを感じている瞬間を僕らが感じたら、それはやって良かったなと思います。もちろん自分が観に行って感じることもありますから、観ていても演じていても、同じ方向にみんなが向いているエネルギーというのが魅力です。まぁそれはミュージカルに限らずなんですけれどね。ミュージカルだけとするなら、お芝居、歌、セリフ、ダンスなど、すごくたくさん表現できるのがミュージカルの楽しさで、年を取れば取るほど難易度は高くなりますが、それがミュージカルの醍醐味なのかなと思います。
松下 特にこういう時期は何も当たり前ではないこともあって、本番を迎えてお客さんの顔が見えたり、皆さんの前で歌って演じているときの熱量が、山本さんがおっしゃったように伝わったなと自分も感じられたときには、カーテンコールも含めてほっとしますね。そういう瞬間は頑張ってよかったなと思います。
海宝 ミュージカルの魅力は、それぞれのキャラクターたちの心情や思いを、音楽、歌、ダンスでパっと見られる、感じられることが大きなアドバンテージ、特徴だなと思います。自分自身が好きな瞬間はいろいろたくさんありますけど、大千穐楽を迎えて、カーテンコールが終わったその瞬間。何とも言えない寂しさや舞台のはかなさもありながら、だからこその美しさも感じて達成感もある。「終わったんだな」というその瞬間が好きですね。
廣瀬 ほぼ同じ気持ちなので言えることは限られますが、これだけ長い期間一緒にいて、作り上げたのにもかかわらず、大千穐楽のカーテンコールが終わって「お疲れ様でした」とみんなが三々五々散っていく。その瞬間が僕はすごく好きです。ちょっと暗く聞こえるかもしれないんですが。
松下 でもめっちゃわかります。特にこういう時期なので、打ち上げもないですからね。
ウエンツ ミュージカルの魅力は、やっぱりセリフだけでは届かないものを音楽が届けてくれたり、ダンスが届けてくれたり、また歌にして届けてくれたり。もっとより深いところまでお客様のもとに心情を届けられる。それがミュージカルの魅力だなと思います。やっていてよかったなと思うことは、幕が開いた瞬間、お客様がそこにいてくださるのが、本当に嬉しいことで。時間を割いて、お金を払ってチケットを買って来てくださる。お客様がいらっしゃって、初めて僕らの作品は完成すると思っているので、その幕があいた瞬間というのは、いつも毎回毎回嬉しく思います。
立石 たくさんあるんですが、一番は、やっぱり人生を生きているって、もう二度とない瞬間の連続だと思うんです。そういう瞬間を音楽とお芝居とダンスといろいろな表現を借りて、お客様とキャストで共有できるところですね。二度とない瞬間を、表現の中で、みんなで過ごせることが魅力だなと思います。

前列左から、ウエンツ瑛士、山本耕史、海宝直人、後列左から、立石俊樹、松下優也、廣瀬友祐=岩田えり 撮影
──山本さんは「狂言回し役」ということで、言葉と向き合う毎日になるかと思いますが、山本さんご自身のお好きな言葉と苦手な言葉を教えてください。
山本 そうですね……。
松下 筋肉が好きでしょう?(笑)
山本 あ、そうだね、筋肉とするとどこかなぁ、(※映画「シン・ウルトラマン」で山本が演じたメフィラスの台詞の口調で)「広背筋下部、私の好きな言葉です」。苦手な言葉はそうだな……「リバースクランチ」です。足を上げてする腹筋です。ありがとうございます(爆笑)。
──ウエンツさん、今回英国メニエールチョコレートファクトリー劇場との共同制作ということで、留学経験も生きるのでは?
ウエンツ 最初にもお話しましたが、外国人の方が作られた日本を舞台にした作品を日本でやることによって、何かしらの接点をできるだけたくさん作れた方が面白いものになると思います。そういう意味で、稽古をする中で、僕が留学で得た経験を生かせる場面も出てくるのではないかなと思っています。
それぞれが新たな作品に向かう思いを、通常の記者会見とは一味違う形で披露した決起集会は拍手のうちに終了。日本と英国の合作で作られるミュージカル『太平洋序曲』への期待が高まる時間となっていた。
◆公演情報◆
ミュージカル『太平洋序曲』
東京:2023年3月8日(水)~29日(水) 日生劇場
大阪:2023年4月8日(土)~16日(日) 梅田芸術劇場 メインホール
公式ホームページ
公式Twitter
[スタッフ]
作詞・作曲:スティーヴン ・ソンドハイム
脚本:ジョン ・ワイドマン
演出:マシュー ・ ホワイト
[出演]
狂言回し/山本耕史・松下優也( W キャスト)
香山弥左衛門/海宝直人・廣瀬友祐( W キャスト)
ジョン万次郎/ウエンツ瑛士・立石俊樹( W キャスト)
将軍/女将 朝海ひかる ほか