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中川晃教×橘ケンチ『チェーザレ 破壊の創造者』を語る(上)

悩み葛藤する青年たちをチームプレイで作っていく

米満ゆうこ フリーライター


 2020年に公演が予定されていたものの、コロナ禍で中止になったミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』が、2023年1月7日(土)から明治座で開幕する。創業150周年を迎える明治座で、初めてオーケストラピットを使うミュージカルになる。『チェーザレ 破壊の創造者』は累計140万部を突破した惣領冬実の同名漫画を原作に、15世紀末から16世紀初めに、教皇の庶子として実権を振るった伝説の英雄チェーザレ・ボルジアの青春時代に焦点をあてて描く。チェーザレ役の中川晃教と、チェーザレの腹心であるミゲル役の橘ケンチ (EXILE)が、互いの役や白熱する稽古場の様子を語り合った。

この作品と出会ったからこそ、今日まで頑張ってこられた

中川晃教(右)と橘ケンチ=中村嘉昭 撮影拡大中川晃教(右)と橘ケンチ=中村嘉昭 撮影

――年明けからついに上演されますね。

中川 とても楽しみにしていた作品が延期になって、いよいよ初演になります。こういう経験はこの作品が初めてですね。『ジャージー・ボーイズ』の再再演も一旦、中止になりましたが、今年やらせていただいて表現できた。2020年の『チェーザレ』は稽古では最終日までいっていたので、ほぼ出来上がっていたんです。振り返ってみれば苦い思い出ですが、この作品と出会ったからこそ、今日まで頑張ってこられたのかな。初日に向かって今はもうワクワクドキドキして、キャストの皆に力をいただいています。

――橘さんは今作がミュージカル初挑戦です。

 初ということで、ドキドキしっぱなしだったんですけど、稽古場に入ったら、皆さんに温かく迎えていただいて。歌唱指導は前から受けていましたが、自分自身が踊りを中心にやってきたパフォーマーなので、そんな人間が歌をどこまでできるかというのが今回の課題です。周りがそうそうたる“歴戦”のすごい方ばかりなので、刺激をもらいながら日々、稽古に励んでいますね。

――中川さんはこの作品のオファーを受けた時、チェーザレ・ボルジアのことをよくご存じなかったそうですね。チェーザレについては本や映画、テレビドラマにもなっていますが、詳しい人は詳しく、知らない人は知らないと、結構バラつきのある人物かなと思います。

中川 そうなんですよ。チェーザレをよく知らない人も、ルネッサンスという言葉は知っているけどヨーロッパの歴史を深く知らない人も、楽しめる作品になっていると稽古をしている時から感じてはいたんですね。

 チェーザレも通うピサの大学にはスペインやフランス、イタリア出身の学生がいて、当時のヨーロッパの縮図と重なっている。蓋を開けてみると、それぞれが覇権争いをしているのが分かるんですが、音楽を通すと、覇権争いに捕らわれず、反骨精神を持って新しい未来を切り開いていきたいと悩み葛藤している青年たちも見えてくるんです。チェーザレを深く知らなかった僕自身が、コロナ禍の2020年を経て、自分が何者であるか探していくということが、チェーザレにも確かにあったんだと腑に落ちました。今回は、そこから紐解いていけたんです。それが役作りにおいて、とても確かになってきている。

 マッキャベリの「君主論」がチェーザレはどういう人物かを知るのにすごく大きな意味を持っています。後にチェーザレは思想だけではなく、真のリーダーとして歴史の中に名を残していく。そういう人物として描かれている史実や映画、資料をたくさん見て稽古場に挑んだんですけど、その世に知られている後々の部分は、お客さんに委ねられていいんじゃないかと思うようになって。今は、史実や映画などにはあまり描かれていない、若いころのチェーザレをどう描くかを、チームプレイで出演者の皆さんとディスカッションを交わしながら作っていて、チェーザレ像が腑に落ちてきているという感じです。

中川晃教=中村嘉昭 撮影拡大中川晃教=中村嘉昭 撮影

――どういうディスカッションが交わされているのですか。

中川 ここは、(橘)ケンチさんどうぞ。彼のほうが僕より説明がうまいんです(笑)。

 いえいえ、そんな。この間、中川さんとダンテ役の藤岡正明さんが稽古場で話しているのを遠巻きに見ていて、面白そうだなと参加させてもらったんです。それぞれのとらえ方がいい意味で違っている。中川さんは作品全体を俯瞰して見ていて、チェーザレの青年期を描くことが肝だと、どこに向かっていくべきなのかを明確に考えていらっしゃる。

 一方、藤岡さんが演じるダンテはチェーザレが憧れていて、チェーザレが生きた時代より前の13世紀の人。聞くところによると、あまりその時代は評価されてなかったそうですね。ダンテは「神曲」が有名ですが、なぜ、ダンテがこの劇に登場するのかと藤岡さんは考えておられる。藤岡さんは藤岡さんなりのビジョンがあって、お互いがそれを熱く語り合っていたんです。

 この作品に出てくるキャラクターは皆、個性が強すぎるんですよ。チェーザレをはじめ、ダンテやハインリッヒ7世、芸術家も何人も出てくる。キャラが濃い人たちがごちゃまぜになって、その中心にチェーザレがいる。彼が色んな人の影響を受けながら、時代を良くしていく中で葛藤もしている、そこをチーム全員で作っていくのが面白いんだろうなと今の時点では思っています。これから稽古を続けてディスカッションを重ねるうちに、色んなものが見えてくると思うんですけど、皆で悩み葛藤するのは楽しいですね。すごく楽しめる座組だなと思っています。

――ちなみに、ダンテは何のために作品にいるのでしょうか。私も台本を拝読して、少し疑問に思いました。

中川 演出家の小山ゆうなさんがいくつか説明されていましたが、チェーザレの頭の中から出てくるダンテなんじゃないかと。

 時代が違うので、あくまで想像の中であり、チェーザレがダンテに憧れているからです。でも、舞台では共存する場面が出てくるんですよね。演者としてはどういう心持ちでどういう目的でいるのかと、藤岡さんをはじめ皆、考えているんです。それをどう見せるかは模索中ではありますね。

橘ケンチ=中村嘉昭 撮影拡大橘ケンチ=中村嘉昭 撮影

――台本には「神曲」を思い起こさせるシーンもありますね。

中川 教皇派と皇帝派が対立している中で、本来なら相容れないハインリッヒ7世とダンテが出会って、意気投合する。チェーザレはハインリッヒ7世とは敵対しているはずのダンテの考え方に興味を持っていて、彼が何を考えていたのか、もっとそれを知りたいし聞きたい。悩み葛藤する中で、そこに理想の政治のあり方、リーダーとして学べる部分があるんじゃないだろうかと読むこともできるんです。藤岡さんとお互いの役を通してだからこそ、認識し合えるところがありましたね。それをケンチさんがずっと聞いていてくださって(笑)。

 初めは軸が全然違っていたのですが、話しているうちに、段々と寄っていくのが面白いなぁと。共通点をお互いに見いだしていく過程を見るのは楽しかったです。

◆公演情報◆
ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』
東京:2023年1月7日(土)~2月5日(日)  明治座
公式サイト
公式ツイッター
[スタッフ]
原 作:惣領冬実『チェーザレ 破壊の創造者』(講談社「モーニング」所載)
原作監修:原基晶
脚本:荻田浩一
演出:小山ゆうな
音楽:島健
[出演]
中川晃教
橘ケンチ(EXILE)
[スクアドラ ヴェルデ] 山崎大輝 風間由次郎 近藤頌利 木戸邑弥(Wキャスト)
[スクアドラ ロッサ] 赤澤遼太郎 鍵本 輝 本田礼生 健人(Wキャスト)
藤岡正明/今拓哉 丘山晴己 横山だいすけ/岡幸二郎
別所哲也 ほか
〈中川晃教プロフィル〉
 2001年「I Will Get Your Kiss」でデビュー。第34回日本有線大賞新人賞を受賞。翌年、ミュージカル『モーツァルト!』の主演に抜擢され、第57回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第10回読売演劇大賞優秀男優賞、杉村春子賞を受賞する。以降、その圧倒的な歌唱力と類い希な表現力で活躍の場を広げ、『キャンディード』『SHIROH』『エレンディラ』など、数々の舞台で主演を務める。2016年にはミュージカル『ジャージー・ボーイズ』のフランキー・ヴァリ役が話題となり、第24回読売演劇大賞最優秀男優賞、第42回菊田一夫演劇賞を受賞。
公式ホームページ
公式twitter
〈橘ケンチプロフィル〉
 2007年、二代目J Soul Brothersのメンバーに抜擢。2009年3月1日、EXILEにパフォーマーとして加入。2012年より、橘ケンチ、黒木啓司、TETSUYA、NESMITH、SHOKICHIの5人から成る「THE SECOND from EXILE」(2016年に「EXILE THE SECOND」に改名)としても活動開始。2008年より、グループ活動のほか、舞台・ドラマを中心に役者として本格的に活動を始める。主な舞台出演作は、舞台『魍魎の匣』、舞台『幽劇』、舞台『歌姫』、舞台『熱海殺人事件 Battle Royal』、朗読劇『LOVE LETTERS』、舞台『レッド・クリフ-戦-』など。
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筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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