この原稿を書いている12月上旬、国会ではやっと被害者救済法が成立したが、その実効性について被害者の弁護団や二世信者たちから疑問の声がやまない。そもそも国会議員のみなさんは、この鈴木エイトさんの本『自民党の統一教会汚染──追跡3000日』(小学館)を読んだだろうか。それでもなお、この法でいいと言えるのだろうか。話題になった本だが、改めて紹介したい。
心待ちにしていた9月の発売日。地元の本屋さん2軒で売り切れていて、ターミナル駅の大きな書店に行って手に入れることができた。
著者は2002年から、世界平和統一家庭連合(旧統一教会、ここでは本書にならって「統一教会」と記す)と自民党の問題を追いかけてきたフリーのジャーナリストだ。
読み始めたところ、期待をはるかに超える圧倒的なファクトが押し寄せてきた。惜しげもなく次々に明かされる事実にページをめくる手が止まらない。一気読みだった。

ジャーナリストの鈴木エイトさん
議員でいることが目的?
まず驚かされるのが、議員たちが議員であり続けるために、なりふりかまわず統一教会を利用していた実態だ。
この本には「主な登場人物」のようにくり返し登場する議員がいる。柳本卓治衆院議員、工藤彰三衆院議員、北村経夫参院議員、宮島喜文前参院議員、山本朋広衆員議員、菅原一秀前衆院議員だ。ほかにも菅義偉衆院議員、杉田水脈衆院議員などのエピソードも印象深い(すべて自民党)。
たとえば北村氏はもともと産経新聞の政治部記者で、2013年に比例区に立候補したときは当然、「地盤・看板・鞄」がなかった。支援したのが統一教会だ。後援会名簿には教団系組織の幹部が名を連ね、信者向けに北村氏への投票を促すメールも送られた。

鈴木エイト『自民党の統一教会汚染──追跡3000日』(小学館)
こうした事実をつかみつつ、著者は「なぜこうした図式になったのか」を探っていく。つまり、なぜ教団が一丸となって北村氏を応援したのだろうか、と。様々な傍証を積み重ねて、官邸幹部の指示ということが明らかにされる。
この選挙で北村氏は14万票余りを集め初当選するのだが、そのうちの8万票余りは統一教会票とみられ、統一教会の支援なしでは当選できなかったと導き出した。
19年の選挙でも同様の光景が見られた。17年5月に行われた演説会では、会場の3分の1を教団信者と思われる年配の女性のグループが占めていた。おそろいの鉢巻きに、北村氏の顔写真が貼られたうちわを持っている。統一教会の幹部とみられる人物も来場しており、集会後、その幹部を北村氏が追いかける姿も書かれている。
北村氏はこの選挙でも当選し、2期目となった。
ずぶずぶとしか言いようがない関係性だが、気になる記述もあった。
2期連続当選を果たし、さぞかし統一教会に恩義を感じているであろうと思われた北村だが、周辺取材を続けると、当の北村自身は統一教会から支援を受けること自体を快く思っていない節があった。そのためか北村は私の一連の報道に対して、秘書曰く「寛容」で「信念を持ってやってらっしゃるのでしょうから」と話していたそうだ。議員事務所も後述する菅原一秀事務所のように居留守を使うことなく電話応対も丁寧だ。その辺り、北村自身が産経新聞政治部長を務めていた経歴からか「報道の自由」を尊重するという姿勢も見られる。
また次のような記述も興味深い。
北村は2013年の参院選全国比例区において統一教会の組織票8万票の上積みで当選後、この時(引用者注:17年5月の教団主催のイベントのこと)まで約4年間、全く当選の見返りとなる“恩返し”を行っていなかった。
統一教会の支援を得て当選した議員は、その後イベントに頻繁に顔を出すようになる。一方で北村氏は上述のとおりで、教団の幹部からは怨嗟の声が上がるなか、次の選挙に向けてまた距離を縮めていったそうだ。
「議員もつらいよ」なのだろうか。でも、そこでやめずに再びイベントに出ていったのだから、旨味がそれ以上ということだろう。実際、統一教会と距離を縮めた議員は、安倍政権下で次々と要職に抜擢されている。
議員たちの統一教会への擦り寄りもとても興味深い。その描写が非常に衝撃的なのだが、著者はその背後まで紐解こうとする。そのプロセスは推理小説を読んでいるようで、とてもスリリングだ。