福嶋聡(ふくしま・あきら) MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店
1959年生まれ。京都大学文学部哲学科卒。1982年、ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)、京都店、仙台店、池袋本店、難波店店長などを経て、現在、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店に勤務。著書に『希望の書店論』(人文書院)、『劇場としての書店』(新評論)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
『何が記者を殺すのか』『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』
「第二章 記者が殺される」では、『映像‘18 バッシング〜その発信源の背後に何が』(2018年12月16日放送)が、取り上げられる。
“『バッシング』では、ベージュのセーターを着て自身を何度も登場させました。意図的に顔を晒したのには理由があります。……差別と偏見を煽りバッシングの波を作り出すブログ主宰者と電話でやりとりする場面にもベージュで出演しています”(P.141)
斉加がベージュのセーターにこだわったのは、視聴者に、自分が誰かを強調するためだ。映像に顔を晒し、実名を書き込み、衣服までも同一にすることによって、誰がこのドキュメンタリーを撮っているのかを、明確にしたのである。
“その後、私自身が映っている画面や実名がネット内に挙げられ、批判や中傷の対象になります”(P.141)
「デマやヘイトを発信する人たちに接すれば、自分も槍玉にあげられるだろう」と予想し、それまでの取材で目の当たりにしたネットバッシングの実態を捉えるために、自らをいわば「餌」にしたのである。
「今回は伝えるために満身創痍になってもいい」
予想通り、取材を積み重ねるに従って、バッシングが殺到した。斉加を「ブラック記者」として拡散するアカウントが次々に増える。かねての計画どおり、斉加は、SNS上の自らへの攻撃の分析を専門家に依頼、その結果浮かび上がってきたのは、「ボット(ツイッターで同じような内容を作成・投稿する自動投稿プログラム)」の関与であった。
2018年12月16日、遂に電波に乗った『映像‘18 バッシング〜その発信源の背後に何が』には、次のテロップが流された。
“当番組は放送前、ネット上で一部の人々から標的にされた。
先月末から6日間、取材者を名指しするツイートの数は5000件を超えた。
その発信源を調べるとランダムな文字列のアカウント、つまり「使い捨て」の疑いが、一般的な状況に比べ、3倍以上も存在した。
およそ2分に1回、ひたすらリツイート投稿するアカウントも複数存在した。
取材者を攻撃する発言数が最も多かったのは「ボット」(自動拡散ソフト)の使用が強く疑われる。
つまり、限られた人物による大量の拡散と思われる”(P.224~225)
斉加尚代の勇気と胆力、行動力には脱帽する。斉加の覚悟、勇気、胆力を生み持続させる力、即ち「自分を惹き付けてやまないテーマ」を、彼女は迷いなく明言する。
「テレビジャーナリズムの可能性を諦めない!」