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ベスト5

*『ケイコ 目を澄ませて』(三宅唱)

 聴覚障碍を持つ女性ボクサーが日々練習を重ね、試合に挑み、一度は心折れるも、ジムの会長らに支えられて再起を決意するまでを、衒(てら)いのない古典的な正攻法で描き切った、心震わす傑作。随所に挿入される、荒川河川敷などの下町の風景も素晴らしい。そして、ヒロイン役の岸井ゆきのの身体にみなぎる力が、熱中できる何かがあれば、人は自分自身であることができる、まさにそのことを雄弁に伝えてくる。これが人生=映画だ!

『ケイコ 目を澄ませて』 東京・テアトル新宿ほか全国公開 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS拡大『ケイコ 目を澄ませて』 東京・「テアトル新宿」ほか全国公開中 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

*『弟とアンドロイドと僕』および『冬薔薇(ふゆそうび)』(共に阪本順治)

 前者は、自分が存在していることを実感できないロボット工学者(豊川悦司)が、自分そっくりのアンドロイド製造に没頭し、周囲の人間たちと様々な齟齬(そご)をきたすという怪傑作。無口で無表情な彼の頓狂な言動や、降り続く雨や幽霊屋敷のような病院の陰鬱な雰囲気が、異様な映画的熱量を放ち、見る者を釘付けにする(主人公は没頭できる何かがあるのに、自分の存在を実感できずアイデンティティを得られない点で、『ケイコ~』のヒロインとは対照的だ)。

『弟とアンドロイドと僕』 「kino cinéma横浜みなとみらい」他にて全国順次公開中 © 2020「弟とアンドロイドと僕」FILM PARTNERS拡大『弟とアンドロイドと僕』 ブルーレイ 発売中 © 2020「弟とアンドロイドと僕」FILM PARTNERS

 後者は、定職に就かず、友人や女から金をせびって自堕落に生きる25歳の若者(伊藤健太郎)の、寄る辺なく漂う日々を、突き放すような、ささくれたようなタッチで描いた、これまた傑作。役者に大仰なリアクションの芝居を禁じた演技設計も見事だが、30年以上におよぶ阪本順治の力走に、あらためて感嘆。

『冬薔薇(ふゆそうび)』 6月3日(金)より、東京・新宿ピカデリーほか全国ロードショー 配給:キノフィルムズ ©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS拡大『冬薔薇(ふゆそうび)』 配給:キノフィルムズ ©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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