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【公演評】花組『うたかたの恋』『ENCHANTEMENT -華麗なる香水-』

宝塚歌劇が誇る王道のラブロマンス、柚香光が悲劇の皇太子で究極の耽美へいざなう

さかせがわ猫丸 フリーライター


 花組公演ミュージカル・ロマン『うたかたの恋』『ENCHANTEMENT(アンシャントマン) -華麗なる香水(パルファン)-』が、1月1日、宝塚大劇場で初日を迎えました。

 19世紀のオーストリアを舞台に描く皇太子ルドルフと男爵令嬢マリーの悲恋『うたかたの恋』は、1983年の初演から幾度も再演を重ね、今では宝塚歌劇が誇る代表作となっています。初演から40周年の節目となる今回は、30年ぶりとなる宝塚大劇場の舞台で、現代に沿った新しい演出も加えられての再演となりました。

 悲劇の皇太子ルドルフを演じるのは、もちろん花組トップスターの柚香光さん。真っ白な軍服が端正な容姿に映え、苦悩に満ちた表情が耽美な世界を描き出します。マリー役の星風まどかさんとともに、麗しいトップコンビにふさわしい、儚くも美しい究極のラブロマンスで、宝塚歌劇2023年の幕開けを華やかに飾りました。(以後、ネタバレあります)

悲劇のプリンス柚香の美

『うたかたの恋』公演から、柚香光=岸隆子 撮影拡大『うたかたの恋』公演から、柚香光=岸隆子 撮影

 『うたかたの恋』といえば、まず思い出すのがオープニングの場面でしょう。真っ赤な大階段で対角線上にたたずむルドルフとマリー、それだけで宝塚ファンにはもうたまりません。ドラマチックなイントロに乗せたルドルフとマリーのセリフは、まさにこの作品を象徴する証。美しいメロディーにつづられた幕開けの感動は、いつの時代にあっても不変でした。

――1889年1月26日、ウィーンのドイツ大使館。皇帝一家臨席の舞踏会で、幸せそうに踊る皇太子ルドルフ(柚香)と男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ(星風)。だが2人の胸にはある決意が秘められていた。
 遡ること9カ月前。次期君主として嘱望されるルドルフは、公務やしきたりに縛られながら、妻ステファニー(春妃うらら)との仲も冷えきり、息苦しい日々を送っていた。一方、従兄弟のジャン(水美舞斗)は、ハプスブルク家の一員でありながら、恋人ミリー(星空美咲)と人生を謳歌している。そんなある日、ルドルフはブルク劇場での祝典で、マリーと出会う。自分もジャンのように生きられたら……そう思わずにいられないほど、ルドルフは彼女に強く惹かれたのだった――

 ウィンナ・ワルツが流れるプロローグは、優雅そのもの。美しい娘役たちと少女漫画から抜け出したような王子たちが踊るバレエは、さっそく夢心地へといざなってくれます。

 そんな世界観のまま、ウィーンの舞踏会へ現れる柚香ルドルフは、とにかく美しい。憂いを秘めたまなざしと輝くオーラ、一部の隙も無いスマートな身のこなしに、他では得られない宝塚男役の魅力を改めて実感します。

 次代のヨーロッパを担う後継者ルドルフに、心休まる日はありません。父親との確執、母親との関係、幼少期からの教育……。柚香さん演じるルドルフは、目に見えぬ重圧と、見ているだけで苦しくなるような孤独に覆われています。机の上に置かれた、恐ろしいはずの髑髏と拳銃も、退廃的で耽美な世界にまとわれた王子にはふさわしく見えるから不思議。なによりマリーに会えず、酒場で軍服を乱してやさぐれる色気は絶品で、ルドルフが追い詰められていく過程に説得力が増すばかりでした。

 2014年花組公演『エリザベート』でもルドルフ役を演じていた柚香さん。当時も素敵でしたが、年月を重ねた深みでより一層魅力を増していることにも、また違った感慨深さが味わえそうです。

◆公演情報◆
『うたかたの恋』
『ENCHANTEMENT -華麗なる香水-』
2023年1月1日(日)~30日(月) 宝塚大劇場
2023年2月18日(土)~3月19日(日) 東京宝塚劇場
公式ホームページ
[スタッフ]
『うたかたの恋』
原作:クロード・アネ
脚本:柴田侑宏
潤色・演出:小柳奈穂子
『ENCHANTEMENT -華麗なる香水-』
作・演出:野口幸作

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筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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