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本土復帰51年の沖縄で感じる仄かな絶望

寄り添うのは「健気に頑張る被害者」だから?

兼島拓也 劇作家

 本土復帰から半世紀の2022年は、沖縄にさまざまな視線が向けられた。さて、明けて2023年の今年は? 沖縄在住の若き劇作家が「復帰51年」の現在地を考えます。

嘉手納基地のそばで生まれ、普天間基地の近くで暮らす

 沖縄本土復帰50年を振り返って、というテーマでこのテキストを書きはじめてはみたものの、この大きすぎる題目に早速頭を抱えています。復帰50年とはなんだったのかなんて、簡単に言葉にすることはできないことは端っからわかっていたはずじゃないかと、このお話をいただいたときの自分自身にいま現在のわたしがぼやいています。

 などと言ってばかりではいられないのでぼちぼちと話を進めていきますが、なのでとりあえず自己紹介ということでもないのですが、まずはじめに自分がどの立場からこのテキストを書いているかということを説明する必要があると思います。

 わたしは沖縄在住の劇作家であり、小さな保育園の経営者です。33歳男性で、1歳の子どもの父親です。沖縄市知花という嘉手納基地にほど近いところで生まれ育ち、いまは宜野湾市真栄原という普天間基地まで徒歩圏内の地域に暮らしています。

 昨年11月末から12月上旬にかけて、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ライカムで待っとく』という、わたしが脚本を担当した演劇作品が上演されました。それは沖縄本土復帰50年という節目に、沖縄在住者の立場から現在の沖縄そして日本を見つめた作品になることをめざして創作しました。それが達成されたかをわたし個人が独断で決定することはできませんが、観劇いただいた多くの方の声から強度のある作品として立ち上がったことは事実だと思っています。

拡大兼島拓也作『ライカムで待っとく』の舞台=KAAT神奈川芸術劇場中スタジオ、引地信彦撮影

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『ライカムで待っとく』
作:兼島拓也、演出:田中麻衣子
出演:亀田佳明、前田一世、南里双六、蔵下穂波、小川ゲン、神田青、魏涼子、あめくみちこ
2022年11月30日~12月4日、KAAT神奈川芸術劇場中スタジオで上演された。

 神奈川県で暮らす雑誌記者・浅野は、ひょんなことから1964年に宜野湾市で起きた米兵殺傷事件について取材することになり、しだいに沖縄の過去と現在が入り交じる世界にのみこまれてゆく。題名の「ライカム」は、かつて沖縄本島中部に置かれていた琉球米軍司令部(Ryukyu Command headquarters)。いまも地名として残り、2015年に近くの米軍施設跡地にオープンしたショッピングモールの名前にもなっている。


筆者

兼島拓也

兼島拓也(かねしま・たくや) 劇作家

1989年、沖縄県沖縄市生まれ。2013年に演劇グループ「チョコ泥棒」を結成し、作・演出を担当。沖縄の若者言葉を用いた会話劇を得意とし、コメディやミステリを軸としたオリジナル作品の上演を行う。また、琉球舞踊家との演劇ユニット「玉どろぼう」としても活動。 2018年、『Folklore(フォークロア)』で、第14回おきなわ文学賞シナリオ・戯曲部門の一席(沖縄県知事賞)を受賞。その他2作品で同賞の佳作受賞歴がある。21年、NHK-FMシアター『ふしぎの国のハイサイ食堂』の脚本を担当。22年、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ライカムで待っとく』の劇作を担当。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです