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豊川悦司主演映画『仕掛人・藤枝梅安』二部作にみる「攻め」の時代劇

ペリー荻野 時代劇研究家

 映画『仕掛人・藤枝梅安』が、2月3日、4月7日に連続公開される。

 原作は、今年、生誕100年を迎えた池波正太郎の人気小説。主人公の梅安は、表の顔は腕のいい鍼医だが、裏では金ずくで悪人をあの世に送る仕掛人の顔を持つ。演じるのは、豊川悦司である。

『仕掛人・藤枝梅安』(第一作) 2023年2月3日(金)より東京・新宿ピカデリーほか全国劇場にて公開 ©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社『仕掛人・藤枝梅安』(第一作) 2023年2月3日(金)より東京・新宿ピカデリーほか全国劇場にて公開 ©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

 第一作の物語は、不穏な場面から始まる。ある明け方、梅安は、仕掛人仲間の彦次郎(片岡愛之助)の家からの帰り、浪人(早乙女太一)が4人の刺客を斬り捨てる場面を目撃する。

 その後、梅安は仕掛けの元締め羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)から料理屋・万七の内儀おみの(天海祐希)の仕掛けを依頼される。初めておみのの顔を見た梅安は息を吞む。梅安とおみのとの関わり、さらに刺客に狙われる浪人と彦次郎が頼まれた仕掛けの裏事情も絡み合い、闇の中で暗闘が続く。

©)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

独特の翳と鋭さを感じさせるスタイリッシュな梅安

 これまで藤枝梅安は、緒形拳、田宮二郎、萬屋錦之介、小林桂樹、渡辺謙、岸谷五朗と名優たちが演じてきた。原作の梅安と同様に長身の豊川は、医師らしい坊主頭に黒いマントのような羽織を翻し、夜の町に姿を現す。独特の翳と鋭さを感じさせるスタイリッシュな梅安だ。

 自身は、こどものころ、「怖いけれど、カッコいい」と緒形の梅安に憧れ、俳優になって共演するようになってからも粋な着物の着方など様々なことを教えられたという。

 「オファーをいただいたとき、緒形さんはじめ、多くの先輩方が大切に演じられた役を自分が引き継げるか、正直悩みました。しかし、池波正太郎先生の生誕100年、世界情勢を鑑みても翳のあるヒーローがスクリーンに登場するのには、ふさわしいタイミングではないか。僕なりの梅安をお見せできればと思い、お引き受けしました。池波先生は、矛盾を抱えているのが人間の本性で、それゆえに様々な宿命を背負うと作品に描いています。中でも梅安は命を救う鍼医者と命を奪う仕掛人、大きな矛盾を共存させた人物です。振れ幅の大きいふたつの顔を演じるのは、俳優としてはとても難しくもあり、楽しくもありました」

©)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

 演出はフジテレビで『抱きしめたい!』などトレンディドラマをヒットさせ、豊川とはドラマ『さよならをもう一度』『この愛に生きて』でタッグを組んだ河毛俊作。監督は、「豊川さんはご自身のキャラクターをマッチさせたクールでダークな新しい梅安像を創り上げてくれました。鍼を使う接近戦での素早いアクションは見ごたえがあると同時に、動きが美しい」と評価する。

 クランクインのかなり前から、鍼の特訓を受けた豊川の長い指の動きに合うように、梅安の鍼は過去の作品のものより細く、長さも調整したという。確かに殺しの場面の梅安の顔や手とのバランスは絶妙だ。こうした監督のこだわりに応えるのも、京都の熟練時代劇スタッフの伝統だ。

「梅安」と「鬼平」製作の背景と目指すもの

 映画『仕掛人・藤枝梅安』は、2月公開の第一作に続き、4月7日に第二作が公開される。第二作にも佐藤浩市、椎名桔平らくせ者ゲストが登場し、梅安、彦次郎と向き合うことになる。また、来年には、同じく池波正太郎の代表作である「鬼平犯科帳」が、松本幸四郎主演で連続シリーズの製作と映画公開が決まっている。時代劇ファンとしては、うれしい限りだ。そして、個人的には、「ついにこの時が来た」と感慨深い。

(第二作) 4月7日(金)より東京・新宿ピカデリーほか全国劇場にて公開 ©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
『仕掛人・藤枝梅安㊁』 4月7日(金)より東京・新宿ピカデリーほか全国劇場にて公開 ©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

 今回の「梅安」「鬼平」は、ともに池波正太郎生誕100年に向けた映像化プロジェクトで、時代劇製作の志をともにする製作委員会、時代劇パートナーズによって製作されている。製作が発表されたのは、2021年3月。その発表会見まで、梅安と鬼平のキャストは秘されており、当日、ラジオの生放送に出ていた私のところには、多くのリスナーから「梅安は〇〇さんでは」「鬼平は△△さんに違いない」と予想メールが届き、ふたつの役への関心の高さを感じていた。

 このプロジェクトを手がけ時代劇パートナーズの幹事社を務める日本映画放送株式会社の宮川朋之常務執行役員は、「わたしたちは10年前より、池波先生原作の『鬼平外伝』シリーズなどオリジナル時代劇の製作を続けてきました。いくつかの作品がギャラクシー賞奨励賞や海外のテレビ賞を受賞するなど高評価をいただく中で、これからは時代劇を『守る』姿勢から、世界に良質な作品を届ける『攻め』の気持ちで進んでいこうと考えるようになりました」と語る。

 ここで重要なのは、「守る」と「攻め」という言葉だ。

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