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豊川悦司主演映画『仕掛人・藤枝梅安』二部作にみる「攻め」の時代劇

ペリー荻野 時代劇研究家

独特の翳と鋭さを感じさせるスタイリッシュな梅安

 これまで藤枝梅安は、緒形拳、田宮二郎、萬屋錦之介、小林桂樹、渡辺謙、岸谷五朗と名優たちが演じてきた。原作の梅安と同様に長身の豊川は、医師らしい坊主頭に黒いマントのような羽織を翻し、夜の町に姿を現す。独特の翳と鋭さを感じさせるスタイリッシュな梅安だ。

 自身は、こどものころ、「怖いけれど、カッコいい」と緒形の梅安に憧れ、俳優になって共演するようになってからも粋な着物の着方など様々なことを教えられたという。

 「オファーをいただいたとき、緒形さんはじめ、多くの先輩方が大切に演じられた役を自分が引き継げるか、正直悩みました。しかし、池波正太郎先生の生誕100年、世界情勢を鑑みても翳のあるヒーローがスクリーンに登場するのには、ふさわしいタイミングではないか。僕なりの梅安をお見せできればと思い、お引き受けしました。池波先生は、矛盾を抱えているのが人間の本性で、それゆえに様々な宿命を背負うと作品に描いています。中でも梅安は命を救う鍼医者と命を奪う仕掛人、大きな矛盾を共存させた人物です。振れ幅の大きいふたつの顔を演じるのは、俳優としてはとても難しくもあり、楽しくもありました」

©)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社拡大©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

 演出はフジテレビで『抱きしめたい!』などトレンディドラマをヒットさせ、豊川とはドラマ『さよならをもう一度』『この愛に生きて』でタッグを組んだ河毛俊作。監督は、「豊川さんはご自身のキャラクターをマッチさせたクールでダークな新しい梅安像を創り上げてくれました。鍼を使う接近戦での素早いアクションは見ごたえがあると同時に、動きが美しい」と評価する。

 クランクインのかなり前から、鍼の特訓を受けた豊川の長い指の動きに合うように、梅安の鍼は過去の作品のものより細く、長さも調整したという。確かに殺しの場面の梅安の顔や手とのバランスは絶妙だ。こうした監督のこだわりに応えるのも、京都の熟練時代劇スタッフの伝統だ。


筆者

ペリー荻野

ペリー荻野(ぺりー・おぎの) 時代劇研究家

1962年、愛知県生まれ。大学在学中よりラジオパーソナリティを務め、コラムを書き始める。時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」のプロデュースや、「チョンマゲ愛好女子部」を立ち上げるなど時代劇関連の企画も手がける。著書に『テレビの荒野を歩いた人たち』『バトル式歴史偉人伝』(ともに新潮社)など多数。『時代劇を見れば、日本史はかなり理解できる(仮)』(共著、徳間書店)が刊行予定

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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