メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

無料

ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』望海風斗取材会レポート

懐かしい宝塚での思い出や感謝を胸に「とても大きな挑戦」へ

小野寺亜紀 演劇ライター、インタビュアー


 1981年にブロードウェイで初演。トニー賞で6部門、グラミー賞で2部門を受賞し、2006年にビヨンセ主演の映画も大ヒットした『ドリームガールズ』。このミュージカルの初演バージョンが、初の日本オリジナルキャスト版として上演される(2月5日~14日 東京国際フォーラム ホールC、2月20日~3月5日 梅田芸術劇場メインホール、3月11日~15日 博多座、3月22日~26日 御園座)。

 世界を股にかけて活躍する「ザ・ドリームズ」のスターとして、一躍有名になる美貌のシンガー、ディーナを演じるのは、屈指の歌声で観客を酔わせてきた元宝塚歌劇団雪組トップスターの望海風斗。2021年に退団後も、『next to normal』『ガイズ&ドールズ』など次々とミュージカルに出演し、2022年度の第30回読売演劇大賞 優秀女優賞を受賞するなど勢いに乗る彼女が、大ヒット作の主演に挑む。

 このたび稽古真っただ中の1月に、大阪で望海の取材会が行われ、作品やキャラクターの新たな発見、自身がこれから挑戦したいこと、約20年にわたり生活の拠点とした関西への想いなど、いろいろと語ってくれた。

びっくりするぐらい踊りや早替わりもあり、視覚的にも楽しめる作品

望海風斗=久保秀臣 撮影拡大望海風斗=久保秀臣 撮影

――稽古をされるなかで感じる、『ドリームガールズ』の魅力や見どころは?

 華やかな部分と人間模様がいい感じに織り込まれている作品だなと感じます。ナンバーがとても多く、振付や歌にものすごく時間をかけて取り組んでいて、びっくりするぐらい踊っていますし、びっくりするぐらい早替わりもしています! そういう意味ではショーのようにお見せするところもありますね。アメリカから来てくださったジェームズ・アロンゾ・ホワイトさんの振付がとても激しくて、出演者みんな口を揃えて言うのが、「こんなに踊るとは思わなかった」と(笑)。歌に比重がある作品ですが、そこに容赦なく踊りも入ってくるので、耳からも楽しんでいただけますし、視覚的にも大変楽しんでいただけると思います。

 またお芝居としても、日本人には馴染みのない60年代70年代の人種差別や、モータウンの音楽業界の変化などが出てくるので、お稽古をしながら改めて勉強しています。とにかく曲が多いのでキャストたちは必死ですが(笑)、お稽古を重ねてレベルアップしていけたらいいなと思っています。

――これまで歌い手として数々の感動を届けてこられた望海さんですが、この作品の歌についてはどのようにお感じですか?

 今までの私の舞台では一曲で気持ちを届けるという歌が多かったと思うのですが、ディーナはみんなで声を合わせるというナンバーがとても多いんです。最初は3人組のコーラスグループで、リードはエフィが担いディーナはコーラスとして入っていて、その後にディーナがリードとなりナンバーを歌う。一つの作品のなかで違った面をお届けできるかなと思います。

 また、ソウルミュージック、R&Bというジャンルの歌なので、そのリズム感やグルーヴ感は今までやってきたミュージカルとは少し違い、難しくもあるのですが、いい挑戦をさせていただいています。アンサンブルの方まで皆さん歌がうまくて、(実力派シンガーの)福原みほさんもいらっしゃるので、いろいろと教えてもらい、皆さんのグルーヴを感じながら学んでいるところです。

――宝塚歌劇団を卒業後、男性の方とも共演されるなかで、歌い方や歌に対する考え方の変化はありましたか。

 ヴォイストレーニングでキーを上げていく練習をしており、筋トレと同じくトレーニングをすることで変わってきているのを実感しています。ただ、男性の方が近くで歌っているのを聞くと、骨格やパワーが違うのでうらやましくなりますね。こんな体格だったら、(男役)当時もっと声が出たのにな!って。私は苦労してパワーを出していましたが、軽々と出されているので悔しくなります。やはり男性の方がいらっしゃるとリードしていただける部分が多く、エネルギーの面でも助けていただいています。改めて宝塚の大劇場で出していたパワーは、あの大劇場でしかできないことだったと感じていて、その余分な力を今は省いていく作業もしています。

歌が楽しいと思い、ずっと続けているところはディーナと共通

望海風斗=久保秀臣 撮影拡大望海風斗=久保秀臣 撮影

――ディーナ役とご自身が重なるところや、共感しているところを教えてください。

 ディーナは18歳ぐらいでスタートするのですが、私も近い年齢で親元を離れ宝塚歌劇団に入団しましたし、先のことは分からないけれど、やりたいことを信じて突き進んでいた当時の自分と似ているところがあり、とても共感できます。実際経験したことはディーナと違うのですが、「こういう世界あり得るな」と分かる部分もあって。逆に、ディーナを通して立場の違う苦しみも知ることができ、共感と発見の両方を経験させてもらっています。

――性格の面で、共通するところはありますか?

 性格はあまり似ていないかな(笑)。私はわりと思ったことがストレートに出るのですが、ディーナは内に持っているものが滲み出てくる、一人で耐える人だなと、稽古をしながら感じています。本当によく耐えてるな!と思います。今はとりあえず自分の持っている感情やエネルギーを出してみて、それを内に秘めるということからやっていこうかと。

――歌への想いという点ではいかがですか。

 ディーナは最終的に歌手より女優を選ぶ人なので、その点では自分とは違うのかなと思いますけど、やっぱり歌が楽しいと思ってずっと続けていると思うので、そこは自分と共通していますね。今、お稽古中も皆さんと一緒に歌を、音楽を合わせることがものすごく楽しくて、自分自身初心に帰っています。

望海風斗=久保秀臣 撮影拡大望海風斗=久保秀臣 撮影

――エフィ役をダブルキャストで演じる福原みほさん、村川絵梨さん、それぞれの魅力は?

 お稽古の段階でもお2人全然違っているのですが、人間としてとても可愛らしい部分がある魅力的なエフィで、ディーナとしては「お友達で良かった!」と思えるのと同時に、(物語の中で)決別しなきゃいけないのが非常に難しいです。

 村川さんのエフィはキュートでありつつ力強さがあり、真っすぐ過ぎるがゆえ……という面も持ち合わせていて。お芝居をずっとされてきた方なので、歌に込められる心情がものすごくストレートに突き刺さります。福原さんは、歌い出した瞬間から引き込まれる声を持っていらっしゃって、太陽のような温かさと、芯のある、女性の強さを持っているなと感じます。本当に全然違うので、ぜひどちらのエフィも体験していただきたいです。お二人とも声にパンチとパワーがあり、エフィとしての説得力がものすごくて、私は引っ張ってもらっています。

自分が2人いるような感覚で、どちらが本当か分からない

望海風斗=久保秀臣 撮影拡大望海風斗=久保秀臣 撮影

――退団されて表情がとても柔らかくなったと思うのですが、ご自身で変化など感じますか?

 表情が柔らかくなったとはよく言われます。(男役時代の)突き進んでいた自分と、そこから解き放たれている自分、2人いるような感覚があり、どちらが本当の自分か分からないというか(笑)。当時は不安なことがあっても、組の仲間や周りにいる人たちに助けてもらっていましたが、今は自分で頑張らなければいけないので、逆に強くいなくては、と思うことはありますね。

――大阪での取材会ということで関西の、特に宝塚周辺での思い出や、こちらのファンの方の応援が力になっているようなことがあれば教えてください。

 思い出は山ほどあります。特に宝塚の劇場周辺は20年近くいたので、今でも自分のホームのような気がします。あんな夢みたいな場所があるんだな、と(笑)。普通にタカラジェンヌが歩いてますし、自転車にも乗ってますし、地域の方やお店の方、皆さんに支えてもらって成り立っていたのを、離れてみて改めて感じます。皆さん「タカラジェンヌ」というより「生徒さん」と呼んで親しくしてくださる独特な空間が、温かく居心地が良かったです。

 また関西のファンの方は熱い方が多いですね。私自身宝塚ファンで、男役がすごく好きだったので、退団後男役ではなくなることに対して、皆さんはどう思われるのだろうと考えていたのですが、変わらず応援してくださる方がたくさんいて、「おかえりなさい」という空気を感じるので、とても救われます。退団後も挑戦し、頑張って良かったなと思わせてくださるので、これからも見守っていただければ嬉しいです。

――大阪公演が行われる梅田芸術劇場には、宝塚時代に何度も立たれましたね。

 トップになる前はシアター・ドラマシティで主役をさせてもらうのが一つの目標でしたし、梅田芸術劇場メインホールで「タカラヅカスペシャル(年に一度スターが集うイベント)」に初めて出た時の喜びもあり、いろいろな思い出があります。そういう意味では「ドリーム」が詰まった劇場です。

望海風斗=久保秀臣 撮影拡大望海風斗=久保秀臣 撮影

――望海さんが今つかみたい夢はありますか?

 私にとっては「宝塚」が大きかったので、それを超える夢を見つけることでしょうか。今本当に好きなことをやらせてもらっていて、お稽古も楽しいですし、公演が始まればやっぱり楽しいでしょうし、それを続けられることが一番の夢かなと思います。

――今、挑戦してみたいことは?

 この『ドリームガールズ』の音楽のグルーヴを、どれだけ自分のものにできるか、自分に染みこませられるか、というのはとても大きな挑戦です。やはりソウルミュージックというのは、ずっとそれをやってきた人と、新たに踏み込む人との間に違いが生じてくると思うので、自分がどこまでいけるのか。今はその挑戦を成し遂げることが目標です。

――最後に公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

 映画や来日版もありましたが、日本オリジナルキャスト版で上演させていただくことは、とても大きな挑戦だと思っています。お稽古しながらも、ものすごく熱いものが流れていて、観ていただくというより体感していただきたいと感じるミュージカルなので、ぜひ熱い想いを劇場で受け取ってください!

◆公演情報◆
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』
東京:2023年2月5日(日)~14日(火) 東京国際フォーラム ホールC
大阪:2023年2月20日(月)~3月5日(日) 梅田芸術劇場メインホール
福岡:2023年3月11日(土)~15日(水) 博多座
愛知:2023年3月22日(水)~26日(日) 御園座
公式ホームページ
[スタッフ]
脚本・作詞:トム・アイン
音楽:ヘンリー・クリーガー
オリジナル・ブロードウェイ版演出・振付:マイケル・ベネット
演出:眞鍋卓嗣
[出演]
望海風斗 福原みほ・村川絵梨(Wキャスト) sara/spi 内海啓貴 なかねかな  岡田浩暉 駒田一

筆者

小野寺亜紀

小野寺亜紀(おのでら・あき) 演劇ライター、インタビュアー

大阪府出身。幼い頃から舞台をはじめ、さまざまなエンターテインメントにエネルギーをもらい、その本質や携わる人々の想いを「伝える」仕事を志す。関西大学文学部卒業後、編集記者を経て独立。長年、新聞や雑誌、Webサイト、公式媒体などで、インタビューや公演レポート等を執筆している。特に宝塚歌劇関係の取材は多い。 小野寺亜紀オフィシャルサイト(https://aki-octogreen.themedia.jp/)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

小野寺亜紀の記事

もっと見る