田中泯が仕掛けた伝説の祭り<アートキャンプ白州>から地域型芸術祭を照射する
今なお圧倒的なリアリティをもつ〈白州〉が想起させるアートの始原と芸術祭の原点
前田礼 市原湖畔美術館館長代理/アートフロントギャラリー
山梨県白州町(現・北杜市)。現在、全国津々浦々で様々な地域型芸術祭が開催されているが、その先駆ともいえるアートフェスティバルが、この南アルプスの麓の農村を舞台に今から30年以上も前に始まり、20年以上にわたって開催された。
だが、それは伝説のように、あまり語られることはなかった。その記憶を模り現在に蘇らせようという展覧会「試展―白州模写 <アートキャンプ白州>とは何だったのか」が千葉県は市原湖畔美術館で開催され、先月幕を閉じた。
身体性から始まった「祭り」
白州での「祭り」を仕掛けたのは世界的ダンサー田中泯。昨年放送された「鎌倉殿の13人」でも鮮烈な存在感を放ち、役者としても活躍する彼は、77歳にして現役の“農夫”でもある。
私はこの展覧会を担当したのだが、調査を始めたところ、記録や資料が存外に少なく戸惑った。そこで田中をはじめとする関係者に会い証言を集めていきながら、<白州>の正体を少しずつ紐解いていった。その道程は、文字通り驚きと発見の連続であった。
まず驚いたのは、地域型芸術祭の嚆矢(こうし)といわれ、私自身も関わってきた「越後妻有 大地の芸術祭」(★)が始まる10年以上も前に農村を舞台にした国際芸術祭があったということだ。
「農村から都市を逆照射する」「芸能と工作」「大地との共存」……
私たちが越後妻有で掲げたテーマや課題が、すでに取り上げられていた。だが、何より驚いたのは、白州での20年に及ぶ祭りが、田中泯というひとりの人間の生理と直感に始まり、その強烈な身体性に貫かれていることだった。

<白州>について語る田中泯さん=2022年10月29日、千葉県市原市
★「越後妻有 大地の芸術祭」の詳細は「こちら」から
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