さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
清廉な医師が国を変える―野望に燃えた男の愛と波乱に満ちた生涯に朝美絢が挑む
雪組公演ミュージカル・フォレルスケット『海辺のストルーエンセ』が、2月24日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで初日を迎えました。この作品は、18世紀デンマークで宮廷の専属医となったヨハン・フードリヒ・ストルーエンセの波乱に満ちた人生を描いたミュージカルです。主演は男役スターとしてますます輝きを増す朝美絢さんで、これが2度目の東上主演作となりました。
実在した医師ストルーエンセに、演出の指田珠子先生がイメージした朝美絢を重ね合わせた世界は、演劇の面白さに加え、宝塚歌劇ならでは美しさも際立つ作品となりました。
――18世紀デンマーク王国。町医者のヨハン・ストルーエンセ(朝美)は啓蒙思想に傾倒し、保守的な医療現場を改革したいと一人奮闘していた。いつかは庶民のために世界で活躍したいと野望に燃え、やがて美貌や口の上手さを活かし、貴族相手に大儲けするようになる。そんなある日、ヨハンのもとにデンマーク王・クリスチャン(縣千)の元侍従長ブラント(諏訪さき)と元側近ランツァウ(真那春人)がやってきた。精神的に不安定なことから酒におぼれ、暴力をふるう王の病を治してほしいのだという。これは出世のチャンスと考えたヨハンと、宮廷に戻りたい2人の利害が一致し、一行はさっそく酒場に向かう。ヨハンは酔いつぶれて大騒ぎする王を収め、見事専属医としての地位を獲得するのだった――
登場時のヨハンは貧しくも理想に燃えた医師。頭の古い憎々し気な医師から追い出されますが、そのストイックさが朝美さんの美しさと相まって胸が痛みます。ところが次に登場した時はイケイケプレイボーイ医師で、あまりの正反対ぶりには戸惑ってしまうほど。
錬金術師も兼ねたこの医師の診察は、怪しい魔法や迷信がメインです。ヨハンの考え方の本質は「この世はすべて科学と理性に基づいている」。でも貴族は迷信が好きだから、世界を変えるにはお金が必要……つまり、彼の行動にはすべてに意味があるのでした。
はじめは清廉な医師、次は軽薄な男、そして政策の助言役的立場になっていったはずが、やがては自ら国を動かそうとする独裁者に――一。人の男が過ごした数年の間に、迷い、希望、歓喜、愛、欲望、そして孤独と絶望……周囲の人々をコントロールしながら、さまざまな感情の波に突き動かされる様を、朝美さんは渾身の演技で挑んでいました。
◆公演情報◆
ミュージカル・フォレルスケット
『海辺のストルーエンセ』
2023年2月24日(金)~3月2日(木) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
公式ホームページ
[スタッフ]
作・演出:指田珠子