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【ヅカナビ】宝塚音楽学校第109期文化祭

実力派ぞろいで見応えたっぷり

中本千晶 演劇ジャーナリスト

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 2月24日〜26日に宝塚バウホールにて開催された宝塚音楽学校第109期文化祭を観た。その清々しい空気を浴びるのが心地良い。こうしてタカラヅカのバトンは受け渡されていくのだなと、しみじみと感じる。何より私自身が初心に帰れる気がする。

 109期生が音楽学校に入学したのは2021年の4月である。つまり、その前の年の春から始まったコロナ禍の制約にもめげず、果敢に受験に挑んだ学年だ。きっと心身ともにタフな人がそろっていることだろう。昨年の108期の文化祭はコロナ禍の影響で上演時期が延びに延びてしまったが、今年は予定どおり3日間6公演が上演されたことを嬉しく思う。

 今回が最終回となるヅカナビでは、この文化祭の様子をお伝えした後、これまでのヅカナビでお伝えしてきた各期の文化祭についても振り返ってみたいと思う。

工夫が凝らされた構成で、学びの成果を発揮

 「文化祭」は、宝塚音楽学校の2年間での学びの成果を披露する場であり、3部構成・約2時間半の公演となっている。

 第1部では、幕開けに「清く正しく美しく」のメロディーに合わせて、全員が緑の袴姿で日本舞踊を踊るのが恒例だ。その後、予科生(1年生)のコーラスをはさんだ後に、「クラシック・ヴォーカル」「ポピュラー・ヴォーカル」と続く。「クラシック・ヴォーカル」では毎年、歌唱力が最も認められた生徒2名がオペラの楽曲を歌って聴かせる。続く「ポピュラー・ヴォーカル」は、タカラヅカの名曲が歌い継がれるコーナーだ。

 第2部「演劇」では、A・Bの2組20名ずつに分かれて芝居を見せる。今年の演目は『BE SURE II』。正塚晴彦の脚本・演出である。

 幕が上がると、そこでは舞台芸術を学ぶ学生たちが卒業公演についての制作会議を行なっている。その内容は、イギリス貴族の令嬢フランスからやってきた貴族の御曹司の哀しい恋の物語だったはずが、意見が飛び交う中で「実は御曹司の正体は大泥棒で、令嬢が身につけている宝石を狙っていた」という設定が加わり、思いがけない展開となっていく。学生たちの話し合いの合間に、卒業公演の舞台が劇中劇として織り込まれていくという趣向だ。

 「演劇」パートの脚本は毎年、その期の陣容に合わせて工夫が凝らされている。今年は学生たちの対話劇に、ヨーロッパ貴族の恋物語(タカラヅカのコスチュームプレイにありがちだ)、そしてミステリーと、3つの異なるテイストの芝居が同時に経験できるというわけだ。出演者たちにとって学びになる作りに作者の愛情を感じた。

 第3部「ダンスコンサート」では、ジャズダンス、バレエ、タップ、モダンバレエなどさまざまなジャンルのダンスを見せる。構成は三木章雄・尚すみれ、演出は三木章雄が担当した。

 劇団に入ってからは男役、娘役としてのダンスしか見られなくなるが、そうなる前の純粋なダンスが楽しめる場面でもある。今年はストリートダンス系の場面がなかったが、その分、バレエ「韃靼人の踊り」に力が入っていた。また、オリエンタルな雰囲気のプロローグもインパクト十分だった。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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